オウンドメディアとは、企業やブランドが保有・運営し、ユーザーに向けて自ら発信するメディアのことだ。
オウンドメディアの目的は、広告ではない「付加価値のあるコンテンツ」を通してユーザーの日常に企業やブランドとの接点を作り、その接点を通じてファンを増やすことにある。
本記事では、今日のデジタルマーケティングにおいて最も重要といっても過言ではない「オウンドメディア」について、成功事例を交えながら解説する。
読み進めていただくと「オウンドメディアとは何か?」をスッキリ明快に理解できる。そのうえで、本当に効果が出るオウンドメディアの作り方、炎上しないために知っておくべき注意点といった「オウンドメディアの実践力」が身につく。
オウンドメディアの基礎を学びたい初学者から、本気で成果を出したい(出さざるを得ない)中級者まで、本記事をとことん役立ててほしい。
では、さっそくオウンドメディアの基本から見ていこう。
目次
1. オウンドメディアとは
まずはオウンドメディアとは何なのか、基礎的な知識から解説する。
オウンドメディアとは有益なコンテンツを提供する自社運営サイト
オウンドメディアを一言でいえば、ユーザーにとって有益なコンテンツを提供する自社運営サイトだ。
冒頭でも述べた通り、オウンドメディアの目的は、「付加価値のあるコンテンツ」によってユーザーの日常に企業やブランドとの接点を作り、その接点を通じてファンを増やすことである。
辞書的な定義では、オウンドメディアは「自社運営メディア全般」を指す。そのため、広義ではコーポレートサイトもECサイトもオウンドメディアといえる。しかし、マーケティング施策として「オウンドメディア」の言葉を使う際には「コンテンツサイト」を指すことが多い。
コンテンツサイトとは、コンテンツを提供するサイトのことだ。コンテンツの具体例としては、ブログ記事、コラム、ナレッジ、ノウハウ、エンターテイメントなどがある。
例えば、今あなたが読んでいるこの記事も、オウンドメディアのコンテンツサイトにあたる。メディア名は『バズ部』で、コンセプトは以下の通りだ。
● バズ部のコンセプト
私たちが考える最高のWebマーケティング、コンテンツマーケティングについて、会社経営者、Webの担当者や個人事業主の方々にダントツで役に立つコンテンツを提供する「バズ部」
従来のコーポレートサイトやECサイトが「商品やサービスを売るための情報」を発信するのに対し、コンテンツサイトは「ユーザーの利益になるコンテンツ」を提供する。オウンドメディアを理解するうえで最も重要なポイントだ。まず押さえてほしい。
トリプルメディアの1つとしてのオウンドメディア
オウンドメディアの本質は、「トリプルメディア戦略」の概念を捉えると、スムーズに理解できる。
トリプルメディア戦略とは、2010年前後に提唱されたデジタル時代のフレームワークだ。トリプルメディア戦略では、メディアを次の3つに分類して施策を行う。
-
オウンドメディア(Owned Media)
-
ペイドメディア(Paid Media)
-
アーンドメディア(Earned Media)
簡単にいえば、オウンドメディア=自社運営サイト、ペイドメディア=広告、アーンドメディア=パブリシティ(報道)やソーシャルメディアである。
ペイドメディアの役割は認知度向上や集客、アーンドメディアの役割は評価の獲得や拡散だ。ではオウンドメディアの役割とは何か。ファンを作ることである。
具体的には、コンテンツの提供を通して、良いUX(ユーザーエクスペリエンス、ユーザー体験)を達成し、その結果としてブランドや商品を好きになってもらう(ファンになってもらう)のが、オウンドメディアの根幹の考え方だ。
先ほど“コンテンツサイトは「ユーザーの利益になるコンテンツ」を提供する”と述べた。これはつまり、ユーザーに良いUXを提供するためなのである。
まず着手すべきはオウンドメディアである3つの理由
「オウンドメディア・ペイドメディア・アーンドメディア。どれから着手すべきか?」
こんな疑問が頭に浮かんだかもしれない。答えは、迷いなくオウンドメディアが最優先だ。その理由は3つある。
(1)費用と情報のコントロールが可能
1つめの理由は「費用と情報のコントロール」という観点において、オウンドメディアは最も取り組みやすいからだ。
オウンドメディアをコストをかけずに作ることは不可能ではないし、発信したい情報を発信したいタイミングで自由に発信できる利点がある。
費用と情報の両方を自由にコントロールできるメディアは、オウンドメディアしかない。
費用と情報のコントロールが可能なオウンドメディアなら、「スモールスタート(小さく始めて大きく育てる)」ができる。十分な広告販促費が確保できない企業やブランドこそ、オウンドメディアの力を最大限に利用すべきだ。
(2)他の施策の効果を最大化するために必要
2つめの理由は、ペイドメディアやアーンドメディアに取り組むにせよ、オウンドメディアがないと効果を最大化できないからだ。
オウンドメディアは、コンテンツ発信のみならず、他メディアから誘導するランディング先としても機能する。つまり、広告・SNS・ニュースなどを通してあなたのブランドや商品を知ったユーザーがたどり着く「最終到着地」がオウンドメディアなのだ。
オウンドメディアがない状態でペイドメディアやアーンドメディアに投資するのは、穴の開いたバケツに水を注ぐようなものである。せっかく誘導したユーザーが、行き場のないまま離れてしまうからだ。
逆に、たどり着いたユーザーがファンになる優れたオウンドメディアを作ることができれば、あとは簡単だ。オウンドメディアへ多くのユーザーを誘導するほど、ファンが増える仕組みができあがる。
ペイドメディアやアーンドメディアへの大胆な投資判断も可能になるだろう。いくら投資すれば、どれだけのリターンがあるのか計算できるからだ。
(3)オウンドメディアを持たないことが弱点になる時流
3つめの理由は、オウンドメディアの運営は、もはや現代のデジタルマーケティング施策におけるスタンダードであり、運営していないこと自体が弱みとなるからだ。
その背景として、オウンドメディアをめぐる時流を把握しておこう。グローバルのマーケティング先進企業は2010年代から続々とオウンドメディアに注力している。
例えば、コカコーラは2012年に「コンテンツ・エクセレンス」の方針を打ち出し、コンテンツ重視のオウンドメディア運営に舵を切った。それから約10年が経ち、現在では国内でも多くの企業が、当然のようにオウンドメディアを運営している。
そして、コロナ禍においてDX(デジタルトランスフォーメーション)が加速した2020年代。オンラインでユーザーとコミュニケーションを取る重要性が増し、第2次オウンドメディアブームが訪れている。
もしあなたの企業がオウンドメディアを持っていないのなら(あるいは過去にチャレンジしたものの放置しているのなら)、今こそ本腰を入れてオウンドメディアに取り組むべきである。
コンテンツマーケティングとの関係性
さて、ここでよくある質問に答えたい。「コンテンツマーケティングとオウンドメディアは何が違うのか?」という質問だ。
コンテンツマーケティングとは、対象ユーザーに対して高品質なコンテンツを提供し、ファン化を促進することで多くの収益を獲得するマーケティング手法だ。
結論からいえば、オウンドメディアはコンテンツマーケティングに含まれる。オウンドメディア運営は、コンテンツマーケティングを実践する手段のひとつだ。
コンテンツマーケティングについては「コンテンツマーケティングとは?|広告費ゼロで10倍の売上を達成した手法」にて詳説している。あわせて読んでいただくと、オウンドメディアを理解するうえで大いに役立つはずだ。
オウンドメディアの具体的なコンテンツ
ここでオウンドメディアを具体的にイメージするために、オウンドメディアで提供するコンテンツの種類にはどんなものがあるのか見ていこう。
(1)コラム型コンテンツ
オウンドメディアの主流ともいえるのが「コラム型コンテンツ」だ。ユーザーが知りたいことを記事形式で継続的にアップしていく。今あなたが読んでいるこの記事も、コラム型コンテンツにあたる。
コラム型コンテンツのメリットは、Googleなどの検索エンジン経由の流入を増やしやすいことだ。記事ごとに検索ニーズに合ったコンテンツを提供すれば、さまざまな検索キーワードからユーザーが自然流入する。
さらに、良質な記事を多く蓄積するほど、オウンドメディア全体の検索エンジン評価が上がる点も見逃せない。結果として、すべての記事において上位表示されやすくなる。
コラム型コンテンツは「ストック型コンテンツ」ともいわれる。時間が経過するほどに価値が上昇していくのだ。オウンドメディアを資産として育てるためには、ぜひコラム型コンテンツを取り入れたい。
(2)事例コンテンツ
事例コンテンツは、BtoB企業であれば「導入事例」、BtoC企業であれば「お客様の声」にあたる。成功談にせよ失敗談にせよ、顧客のリアルなストーリーは、コンバージョンに直結しやすい。
実際に、導入事例やお客様の声を徹底的にブラッシュアップした結果、コンバージョンが飛躍的に伸びたケースもある。
特に、ペイドメディアやアーンドメディアを通じてあなたの企業・ブランドに興味を持ち、オウンドメディアにたどり着いたユーザーにとっては、事例コンテンツは最も知りたい情報のひとつだ。
事例コンテンツは、コンバージョンを強化するためには、注力したいコンテンツである。
(3)動画コンテンツ
近年、活用するオウンドメディアが増えているのが「動画コンテンツ」だ。商品の使い方、インタビュー動画、家事のTips、エンターテイメントなど、さまざまな動画がオウンドメディアのコンテンツとして発信されている。
例えば、オウンドメディアという言葉が生まれる前からECサイトのメディア化を進め、今では月間1,500万PVアクセスを誇る『北欧、暮らしの道具店』も、動画コンテンツを提供しているオウンドメディアだ。
もともとテキストの読みものが人気だったが、2018年頃からはオリジナルのドラマまで展開している。
「コンテンツ」と一口にいっても、それぞれのオウンドメディアによって、さまざまな形式が取られていることがわかるだろう。
2. オウンドメディアで解決できる5つのビジネス課題
前章では、オウンドメディアとは何なのか、基礎的な知識をご紹介した。次に知りたいのが、「オウンドメディアは、ビジネスにどう貢献するのか?」という点だろう。
あなたが以下の課題のいずれかを抱えているのであれば、オウンドメディアが間違いなくおすすめだ。
なぜこれらの課題をオウンドメディアで解決できるのか。その仕組みを見ていこう。
(1)新規顧客の獲得
オウンドメディアがまず解決できる課題は「新規顧客の獲得」だ。オウンドメディアによって新規顧客を獲得できる理由は2つある。
1つめは、確度の高い見込み顧客へリーチできることだ。オウンドメディアであなたの商品・サービスと親和性の高いコンテンツを発信すれば、おのずとあなたの商品・サービスの顧客となりやすいユーザーが引き寄せられてくる。DtoC企業なら新規顧客への引き上げが容易であるし、BtoB企業なら営業後の成約率が高まる。
2つめは、見込み顧客の前段階である潜在顧客を囲い込み、ナーチャリング(育成)ができることだ。今はアプローチしてもコンバージョンしない潜在顧客であっても、オウンドメディアを通してつながり続けることで、やがて見込み顧客へとステップアップしていく。
オウンドメディアを運営していると、直近の売上につながる見込み顧客と、将来の売上につながる潜在顧客という“2つの軸”で新規顧客を獲得できるのが、大きな利点である。
(2)既存顧客の育成
2つめに解決できる課題は「既存顧客の育成」だ。具体的には、リピート率・客単価・LTVの改善にオウンドメディアが貢献する。
既存顧客のロイヤルティを高めるためには、“顧客との接点をいかに作るか”が重要なのはいうまでもない。顧客との接点を作るために、通販企業は頻繁に郵送DMを発送するし、BtoB企業の営業パーソンは定期的に取引先を訪問する。
しかし、「宣伝臭」「営業臭」が強くなれば、接点の多さは逆効果となる。顧客は売り込まれることに不快感を覚え、ロイヤルティが高まるどころか離脱のきっかけとなってしまうからだ。
そこで活躍するのがオウンドメディアだ。オウンドメディアなら、既存顧客と企業・ブランドとの間に、自然な形で接点を作れる。
宣伝臭も営業臭もないオウンドメディア上でのコミュニケーションを通じて、顧客はあなたの企業・ブランドとの絆を深めていく。オウンドメディアには真のロイヤルティを高める効果があるのだ。
(3)ブランド力の向上
3つめは「ブランド力の向上」だ。ブランディング施策に取り組んでいるのに、なかなかブランド力が高まらないと悩んでいるのなら、オウンドメディアを最大限に活用したい。
なぜなら、ブランディングとオウンドメディアは非常に相性が良いからだ。ブランドが目指す“あるべき姿”を、妥協なく思うままに表現できるのは、自社運営のオウンドメディアならではの特性である。
ブランドが届けたいメッセージや世界観を、オウンドメディアを通してユーザーに体験してもらおう。その結果、ブランド力は確実に向上していく。
(4)優秀な人材の確保
4つめは「優秀な人材の確保」だ。
「オウンドメディアリクルーティング」という言葉をご存じだろうか。近年注目されている採用手法で、オウンドメディアを活用した積極的な情報発信によって優秀な人材を引き寄せるのが特徴だ。
オウンドメディアリクルーティングでは、従来の求人広告では到底書き切れなかった圧倒的な量の情報を、オウンドメディアで発信する。例えば、企業理念、創業ストーリー、代表者の考え方、社員インタビューなど、「その企業や働く人たちの肌感」をリアルに伝えていく。
結果、「この会社が好きだ」「この会社で働きたい」と感じる人の母数が増える。同時に、深く企業を理解したうえで入社を希望する人物を採用できるため、入社後のマッチング精度が高くなる。
あなたの会社で優秀な人材を確保したいのであれば、ぜひオウンドメディアでの採用活動にチャレンジしてほしい。
(5)広告販促費の削減
5つめは「広告販促費の削減」だ。オウンドメディアの活用によって、広告販促費が大幅に削減できることは珍しくない。
というのは、オウンドメディアの効果は半永久的に持続するからだ。しかも、オウンドメディアを長く運営するほど、オウンドメディア自体の認知度向上や検索エンジンからの評価獲得によって、効果が高まっていく。
例えば、同じ100万円を投資するなら、広告の掲載期間しか効果が持続しない広告と、半永久的に効果が持続し高まり続けるオウンドメディアなら、オウンドメディアのほうが投資効果が高い。
オウンドメディアをしっかり育て、十分なリターンが得られるようになれば、現在実施している広告や販促の多くを減らすことができるだろう。
3. オウンドメディアの成功事例
ここまでお読みいただき、
「オウンドメディアって良さそうだけど、本当にそんな効果あるの?」
と思ったかもしれない。
そこで本章では、実際の成功事例を見ていくことにしよう。
北欧、暮らしの道具店
出典:北欧、暮らしの道具店
ECサイトで商品を販売している企業であれば、大変参考になるのが『北欧、暮らしの道具店』だ。オウンドメディアを活用して年間売上30億円超まで成長した成功事例である。
運営元の株式会社クラシコムは、青木社長が実妹と2人で2006年に創業した会社だ。1年目は不動産を扱うIT事業を手がけるものの軌道に乗らず撤退。その後、古本を仕入れて売る「せどり」で食いつないでいたという。
そんな彼らが、次なる可能性を求めて2007年に開店したのが、『北欧、暮らしの道具店』だった。小さな会社が倒産寸前でスタートしたショップは、2020年には月間PV1,500万PV超・月間150万人の顧客を獲得するECサイトへ成長を遂げる。これだけの業績向上をもたらしたカギが、まさにオウンドメディアにある点に注目してほしい。
『北欧、暮らしの道具店』は2011年より、コンテンツ制作に注力することで、自社サイト自体に集客力をつける方針を打ち出した。オウンドメディアの概念が国内に入ってくるよりも早く、コンテンツによって集客する「自社サイトのメディア化」をスタートしたのだ。
北欧にまつわるコラム、スタッフの愛用品紹介、暮らしのちょっとしたエッセンス──など、ユーザーが楽しめるコンテンツを発信していった。
2012年の年商は2億1千万円(前年比175%)で、この時期の社員はわずか8名。その後、毎年150%超の成長を続け、現在では圧倒的な集客力を誇るオウンドメディアとなっている。
コンテンツを発信し続け、年月の経過とともに蓄積されるコンテンツ量と比例して、成長が加速する。オウンドメディアの典型的な勝ちパターンといえるのが『北欧、暮らしの道具店』だ。
実際に蓄積されたコンテンツのバックナンバーは「当店の月別バックナンバー」から見ることができる。
事例2:神田外語学院ブログ
リソースの少ない、多くの企業にとって参考になるのが神田外語学院の『神田外語学院ブログ』だ。
『神田第後学院ブログ』は記事の執筆も含めて、たった3人でメディアの運営をしている。たった3人で記事の更新数も多く無い中、1年で33万PVを達成し、毎月50件以上、非常に質の高い見込み客を獲得し続けている。
神田外語学院は当時WEBからのリード獲得の9割を指名検索に頼っていたという状況で、ブランド力に依存しない集客チャネルとしてコンテンツマーケティングのご相談を頂いた。
神田外語学院は60年以上の歴史があり、ある程度外国語専門学校としての認知は獲得できていた。ただ、当時のwebからのリード獲得はそのほとんどが指名検索(学校名の直接検索)に依存しており、これから更に加速する少子高齢化時代の学校運営を考えると、学校の”ブランド力”だけに依存しない集客チャネルを確立する必要があったのだ。
それまでリスティング広告等も行ってきたのだが、人生の重要な進路選択である”学校選び”に広告色の強いリスティング広告は相性が悪かった。
そこで白羽の矢が立ったのが、オウンドメディアの立ち上げだった。
学校法人という信頼感が重要になる業態において、発信する情報の質を担保できるオウンドメディアは非常に親和性が高かったのだ。
結果的に神田外語学院ブログの成果によって、昨対比で倍以上のリード数を獲得。大きな成果を実現することができた。
4. オウンドメディアで誰もがぶつかる3つの問題
前章では成功事例を確認したが、一方で失敗するオウンドメディアがあるのも事実だ。特に、2010年代の第1次オウンドメディアブームで立ち上げられたオウンドメディアの中には、更新がストップしたまま放置されているオウンドメディアも少なくない。
実はオウンドメディアには、誰もがぶつかる3つの問題がある。
本章では、3つの問題と原因を見ていく。解決方法は次章で詳しく解説するので、続けて読み進めてほしい。
(1)効果がよくわからない
まず多いのが「効果がよくわからない」という問題だ。
オウンドメディアを始めてみたものの、「効果の実感が得られなかった」というケースもあれば、「効果があったのかなかったのか、判断できずによくわからない」というケースもある。
効果がよくわからない状態に陥る原因は2つある。
1つめは戦略の甘さだ。「とりあえず、やってみますか」と、“オウンドメディアを立ち上げること自体”が目的化してしまうことは、大企業でも中小企業でもよく見られる。しかし、綿密な戦略なしでオウンドメディアの効果が出ることは、まぐれ以外にない。
2つめは効果測定の問題だ。何をもって成功とするのか(失敗とするのか)の基準がないままにオウンドメディアを運営しても、結果の良し悪しを評価できない。どんな効果があったのか(なかったのか)把握できなければ、当然、効果はよくわからないままとなる。
(2)コンテンツの作り方がわからない
次に「コンテンツの作り方がわからない」という問題も、多くのオウンドメディアがぶつかる。いざオウンドメディアを立ち上げたものの、どんなコンテンツを作ったら良いのかわからず、更新が滞ってしまう。
コンテンツの作り方がわからない最大の原因は、コンテンツを「誰に・何のために届けるのか」を明確にしていないからだ。コンテンツの存在意義が定かでないのにユーザーの役に立つコンテンツを作るのは、不可能である。
そのことに気づかぬまま、制作ノウハウ・ライティング・デザインなどのスキルをいくら向上させても、コンテンツの作り方はわからないままだ。
(3)人手不足で更新が続かない
3つめの問題は「人手不足で更新が続かない」だ。現場に丸投げして必要な人員を確保しなければ、オウンドメディアの更新は止まる運命にある。
なぜなら、現場のスタッフにとって、オウンドメディア業務の優先度は低くなりやすいからだ。例えば、今月の売上に直結する営業や、明日の会議で使う資料の作成など、スタッフにとって緊急度の高い業務が優先される。
多忙な職場ほど、「オウンドメディアの更新は後回しにされやすい」という事実を踏まえて人員配置やプロジェクトマネジメントを行わないと、オウンドメディアの更新はストップする。
5. オウンドメディアの失敗を避けるために必須の3要素
オウンドメディアの失敗を避けるためにはどうすれば良いのか。必ず押さえておくべき3要素がある。ビジネスとしての目的、オウンドメディアのビジョン、明確化されたリソースだ。
この3要素のうち、どれかひとつでも欠ければ、オウンドメディアの成功は難しい。
逆に、この3要素さえ頑丈なら、オウンドメディアは失敗しない。オウンドメディアの運営過程で、現場のタクティクス(戦術)レベルの失策が起こることはあり得るが、リカバリー可能な範囲にとどまる。
つまり、これらの3要素は、建物に例えるなら“基礎”にあたる。オウンドメディアの土台を揺るがないものとし、オウンドメディアのプロジェクトごと失敗するリスクを回避するために不可欠なポイントだ。それぞれ詳しく見ていこう。
(1)ビジネスとしての目的
オウンドメディアの「ビジネスとしての目的」を明示せぬまま立ち上げられるオウンドメディアは多い。
繰り返し伝えてきた通り、オウンドメディアは「ユーザーの利益になるコンテンツ」を提供する。では、ビジネスとしての企業の利益は度外視して良いのか。
答えは当然NOである。それなのに多くの企業は「事業として何のためのオウンドメディアなのか」を考え抜く前に、オウンドメディアの立ち上げに先走る。だから利益が出せない。
目的を設定する目的
では、そもそも、なぜオウンドメディアの目的を設定する必要があるのか。
目的を設定する目的は、オウンドメディアに関わるメンバー全員の行動が向かうべきベクトルを指し示すことで、求心力を生み出し、チームの戦力を最大化することである。
目的(=目に見える的)を明確に定めることで初めて、チームメンバーの行動が的に向かってフォーカスしていくのだ。
適切な目的設定によって生まれる求心力は、オウンドメディアの良い戦略・良いプランニング・良いアクションの源泉だ。業績向上に貢献するオウンドメディアほど、目的の設定に時間をかけ、熟考を重ねて決めている。
優れた目的の立て方
では、適切な目的を設定するためにはどうすれば良いのだろうか。
まずは、目的は大変重要であり時間をかけて熟慮すべきものという意識を持ってほしい。そのうえで、優れた目的を立てるための具体的なエッセンスを紹介しよう。4つの項目がある。
- 具体的である
- 測定可能である
- 達成可能である
- 整合性が取れている
具体的である
目的は具体的であればあるほど良い。漠然とした目的では、達成率が低くなる。行動を目的に対して最適化できないからだ。同時に、人によって解釈が異なる余地を残さないことも重要である。曖昧な言葉はすべて具体化しよう。
測定可能である
目的を考えるときには、同時に「どう測定するか」を考える必要がある。測定できない目的では、達成したかどうか判断できない。測定可能な数値目標に変換できる目的を設定しよう。
達成可能である
ビジネスとして機能させるための目的は、夢や願望ではない。達成可能であることが重要だ。非現実的な目的を設定すると目的が形骸化し、目的に向かってチームの結束力を高める効果が期待できなくなる。
整合性が取れている
ここでいう整合性とは、オウンドメディアよりも上位にある概念との整合性だ。上位概念の例としては、企業のビジョンやブランドのマーケティング戦略などがある。企業やブランドの大きな方針の中でオウンドメディアが担う役割を考える必要がある。
以上が、優れた目的を立てるための4項目だ。
目的は時間をかけて熟慮すべきと述べたが、具体的には、上記の4項目をチェック項目として推敲を重ねると良い。すなわち、「具体的か?測定できるか?達成できるか?整合性は取れているか?」という問いだ。
同時に設定すべきサクセスクライテリア
どんなに優れた目的も、立てっぱなしでは機能しない。目的を立てたら、必ずセットでサクセスクライテリア(SC)を設定しよう。
サクセスクライテリアとは、成功基準のことである。いつまでに、どんな指標を満たしたら成功と判断するのか(あるいは失敗と判断するのか)を明確に決めておく。
サクセスクライテリアの重要点は2つだ。1つめは必ずプロジェクトが開始する前に設定しておくこと。2つめは、評価の期限を定めることである。
オウンドメディアのような長期的なプロジェクトでは、ロングターム(長期)のサクセスクライテリアと、ショートターム(短期)のサクセスクライテリアを設定しておくと良いだろう。
● 事例:ダイエット商材のDtoC企業のオウンドメディア企画書
余談だが、サクセスクライテリアの設定は、オウンドメディアの運営チームが、上層部や他部署からの横やりに負けないためにも有益だ。
オウンドメディアで成果が出るまでに時間がかかった場合、「失敗なのでは?」「リソースを割きすぎでは?」「撤退すべきでは?」といった横やりが入ることがある。
最初にサクセスクライテリアを設定していれば、横やりをはね除けられる。設定したサクセスクライテリアに向かって、粛々とオウンドメディア運営を遂行するのみだ。
(2)オウンドメディアのミッション
次にオウンドメディアのミッションの話に移ろう。
オウンドメディアのミッションとは
オウンドメディアのミッションとは「あなたのオウンドメディアが成し遂げるべき根幹の使命」のことだ。
オウンドメディアのコンセプト、主義主張、コンテンツなどの戦略はすべて、「ミッション」という縦串で貫かれている。オウンドメディアに一本筋の通った軸を与えるのがミッションだ。
前述の“ビジネスとしての目的”では、当然、企業にとっての利益追求が必要だった。しかし、オウンドメディアのミッションは、営利を抜きにして定める。
例えば、私たちバズ部のミッションは、以下の通りである。
● 事例:バズ部のミッション
売上アップに悩んでいる企業に、低コストかつ短期間(半年から3年)で業界のトップを取るためのWEBマーケティングの手法を提供する
ミッションとは、「あなたのオウンドメディアが存在することによって、ユーザーのどんな未来を実現したいのか。そのためにあなたは何を成し遂げるのか」と言い換えても良い。
オウンドメディアにミッションが必須の理由
「ミッションの重要性なんて今さら」と思うかもしれない。しかし、オウンドメディアには、とりわけミッションが重要な理由がある。それは、オウンドメディアでは「ユーザー優位」でコンテンツ制作を進めるためだ。
ミッションがないと、オウンドメディアはバラバラに砕け散る。
もう少し具体的に説明しよう。「ユーザーのためになるコンテンツなら、何を作っても良いのか?」答えはNOだ。
ミッションがないままに、手当たり次第「ユーザーのためになりそうなコンテンツ」を作っていたら、オウンドメディアに一貫性と説得力がなくなる。
人間にたとえるなら「自分の考えがなく相手に合わせてばかりの八方美人」だ。想像してみてほしい。ファンがつくわけがない。話していても面白くないし、会う度に言うことが違って信頼できないからだ。
ミッションがないオウンドメディアの末路
オウンドメディアとしてのミッションがないままに、ユーザー第一主義を実践すると、ユーザーの御用聞きメディアに成り下がってしまう。「ユーザーのため」という大義名分のもと、方向性がバラバラのコンテンツが量産されるからだ。
ユーザーから見れば「ブレブレ」としか思えない。気づけば、読んでもつまらない記事ばかり山積みだ。もう誰も来ない。まるで、コンテンツの墓場のようである。
当然ながら、これは真のユーザー第一主義ではない。オウンドメディアを通して、ユーザーのどんな未来を実現したいのか描いたうえで、その手段となるコンテンツを制作する。それが、真のユーザー第一主義のオウンドメディアである。
ミッションの立て方
では、オウンドメディアのミッションはどう立てれば良いのか。ポイントは「Whom・Who・What・How・Whyを明確にすること」だ。
すなわち、「誰に?/誰が?/何を?/あなたは、どのようにして問題を解決・実現するか?/なぜか?最終的な目的や与える最高の価値は何か?」という4W1Hである。
実際の事例を見てみよう。
● 事例:外壁塗装業者のオウンドメディアのミッション
このように明確なミッションがあれば、コンテンツがブレることはない。と同時に、「このミッションを果たすのだ」という使命感に駆られて制作されたコンテンツには、熱い気持ちが宿る。
気持ちのこもったコンテンツはユーザーの心を揺さぶり、新たな行動の手助けをし、ユーザーの幸せを増やしていく。これこそ、オウンドメディアのあるべき姿だ。
(3)明確化されたリソース
最後に「明確化されたリソース」について解説しよう。
リソースの明確化が必要な理由
ここでいうリソースとは、オウンドメディアの立ち上げから運営のために配分する人材・費用・時間を指す。リソースの明確化が必要な理由は2つある。
1つめの理由は、必要な資源を配分することによって目的を達成するためだ。そもそも目的達成のために必要な資源が配分されていなければ、当然ながら目的は達成できない。
先に述べた「人手不足でオウンドメディアの更新が止まる」という問題は、まさに必要なリソースが適切に割り当てられていないために発生するのだ。
2つめの理由は、オウンドメディアのプロジェクトチームの思考力を高めるためだ。この効用はあまり知られていないが有益な視点である。ぜひ心に留めてほしい。
クリエイティブの分野には「制約は創造性を高める」という言葉があるが、オウンドメディアにも同じことがいえる。
何の制限もない自由な状況下では、イノベーションは生まれない。イノベーションは、「限られた人数、限られた金額、限られた時間において目的を達成するためにはどうすべきか」と思考することによって生まれるからだ。
制約(=明確化されたリソース)があるからこそ、人間の思考力は最大化される。あらゆる切り口で物事を捉え、無数の選択肢を思考したうえで最適解を導き出し、目的に向かって最短距離で走ることができるのだ。
リソースが明確化されていなければ、チームは“気持ちでがんばる”方向に走りやすい。一見すばらしいことに思えるが、その裏には“思考停止”に陥るリスクが潜んでいる。
たとえリソースに余裕があり「いくら予算を使っても良い」状況だったとしても、リソースはあらかじめ明確化しよう。
オウンドメディアに必要なリソースとは
では、オウンドメディアのために確保すべきリソースとは、何だろうか。
フェーズで大きく2つに分けられる。「立ち上げ」に必要なリソースと「運営」に必要なリソースだ。
オウンドメディア立ち上げに必要なリソース
まずオウンドメディア立ち上げに必要なリソースから解説しよう。
“オウンドメディアの立ち上げ”とは、コンテンツの箱となるオウンドメディア用Webサイトの構築を指す。最低限、以下のリソースが必要だ。
▼ オウンドメディア立ち上げに必要なリソース
タスク | 必要な人材 |
企画・戦略 | ブランドマネジャーWebマーケタープランナー など |
設計・ディレクション | Webディレクター |
サイトの制作開発 | WebデザイナーWebプログラマー |
社内に担当できるメンバーがいなければ、アウトソーシングする必要がある。早めに費用を見積もっておくことが重要だ。
なお、以下の企業に限っては、積極的に外部リソースを活用したほうが良い。社内メンバーだけでは失敗確率が高くなるためだ。
▼ 外部リソースを積極活用すべき企業
- 初めてオウンドメディアを立ち上げる企業
- 過去にオウンドメディアを立ち上げたことはあっても成功経験のない企業
外部パートナー会社を選ぶコツは、後ほど「オウンドメディア制作のパートナー会社の選び方」にて解説する。続けて読み進めてほしい。
オウンドメディア運営に必要なリリース
オウンドメディアが無事に立ち上がったら、次に必要になるのが運営のリソースだ。
“オウンドメディアの運営”には、オウンドメディア用のWebサイトが完成しローンチした後に発生するすべてのアクションを含む。オウンドメディアの運営に最低限必要なリソースは、具体的に以下の通りである。
▼ オウンドメディア運営に必要なリソース
タスク | 必要な人材 |
コンテンツ制作 | エディターライターWebデザイナー |
SEO対策 | Webマーケター |
効果検証 | Webマーケター |
このうち「コンテンツ制作」は、多くの企業が外注するか、あるいは専属スタッフの採用を行っている。オウンドメディアを充実させるためには、どうしてもコンテンツの量が必要になり、他業務との兼任では制作が追いつかないためだ。
オウンドメディア立ち上げのリソースを確保しても、運営のリソースを確保していないと、オウンドメディアの更新は止まってしまうことは、先にも述べた通りである。
とはいえ、初めてオウンドメディアを運営する企業では、実際どれほどのリソースが必要になるか、見積もるのが難しい現状がある。その場合は、企画段階からオウンドメディアの知見を持つパートナー会社に入ってもらい、アドバイスを得ると良いだろう。
以上が、オウンドメディアに必須の3要素ビジネスとしての目的、オウンドメディアのビジョン、明確化されたリソースである。
まとめると、「目的」によって業績向上への求心力を高め、「ミッション」によってコンテンツに一貫性と説得力を持たせる。「リソース」によって目的達成の原資を与えるとともに、チームの思考力を高める。
この3要素は、ときには補完し合い、ときには牽制し合いながら、オウンドメディアを成功させるための「バランス」を保っている。
オウンドメディアを成功させるためには、小手先のテクニックに走るのではなく、まずは目的・ミッション・リソースの3要素を、愚直に練って練って練りまくることが肝心だ。
6. オウンドメディア実践の流れ
さて、ここでオウンドメディアの実践フローを見てみよう。本章の意図は、オウンドメディアの立ち上げから運営までの流れを通しで把握し、ざっくりと全体像をつかんでいただくことだ。
具体的手法の細かい解説は割愛するが、詳しいやり方を知りたいときに読むべき記事を併記している。良記事を厳選しているので、必要に応じてリンク先に飛び、学んでほしい。
オウンドメディア立ち上げまでの流れ
まずはオウンドメディア立ち上げまでの流れを見てみよう。
Step1:目的・ミッション・リソースの決定
オウンドメディア立ち上げのファーストステップは、前章で解説した「目的・ミッション・リソース」を決めることだ。これでオウンドメディアの根幹ができあがる。
本記事の「5. オウンドメディアの失敗を避けるために必須の3要素」にて詳しく解説している。熟読のうえ、じっくり腰を据えて取り組もう。
Step2:コンセプト・ターゲットの設定
次に、オウンドメディアのミッションを踏まえながら、オウンドメディアの在り方をより具体的に定義していく。オウンドメディアのコンセプトを決め、ターゲット像を具体的に設定する。
コンセプトの設定、ターゲットの設定については「コンテンツマーケティングとは?|広告費ゼロで10倍の売上を達成した手法」内の「7.1.ターゲットの設定」を確認してほしい。
コンテンツマーケティングとは?|広告費ゼロで10倍の売上を達成した手法Step3:コンテンツの検討
ターゲットに合わせて、具体的にどんなコンテンツを掲載していくか、コンテンツの大きな方針を検討する。
コンテンツの検討は「Webコンテンツの制作ガイド~売れるサイト作りに必要不可欠な5ステップ~」の記事がおすすめだ。コンテンツの検討方法を5ステップで解説している。
Step4:サイト構成の検討
コンテンツをサイト内でどのように構成するか決める。各ページをカテゴリに分け、サイトマップを作成する。ユーザーにとってコンテンツが探しやすいことが重要だ。同時に、Googleなどの検索エンジンからの集客を狙ううえでは、SEOにも配慮する必要がある。
サイト構成を検討するうえでは「キーワード選定|圧倒的集客を実現するコンテンツプランニングと絶対やるべき3つの事」を読んでおくと良い。SEOに配慮したサイト設計の知識と技術が習得できる。
Step5:要件定義
ここまでに決めた内容を、Webサイトの要件として定義する。これは、WebプログラマーやWebデザイナーに共有するためのものだ。
要件定義をする際には「【DL可!】Webサイトの要件定義シートで制作・依頼をしよう。 | 外注BOOK」の記事が役立つ。具体的にどんな要件を定義すべきか、詳しく解説されている。
Step6:制作開発
WebプログラマーやWebデザイナーが実際に制作開発を行う。完成すると、オウンドメディアの立ち上げまでのフェーズが完了だ。
オウンドメディア運営の流れ
無事にオウンドメディアがローンチしたら運営のフェーズに入っていく。
オウンドメディアの運営のファーストステップは、キーワード選定だ。どんなキーワード(=テーマ)でコンテンツを作るか選定する。キーワードが決まったら、コンテンツの方針をプランニングし、実際にコンテンツを制作する。
さらに、コンテンツからユーザーが顧客化(コンバージョン)するための仕組みを作り、効果測定をして改善を行う。オウンドメディア運営は、基本的にこの繰り返しだ。
オウンドメディア運営におけるコンテンツ制作のノウハウは、「バズ部式 コンテンツマーケティングの成功事例と実践の5ステップ」にて解説している。これは必ず熟読してほしい。
運営のフェーズに入ったら、関わるチームメンバー全員に「バズ部式 コンテンツマーケティングの成功事例と実践の5ステップ」を共有するのがおすすめだ。具体的かつ詳細に手法を公開しているため、「コンテンツの作り方がわからない」の落とし穴にハマることはなくなる。
7. オウンドメディア制作のパートナー会社の選び方
ここまでお読みいただき、「自社のリソースだけでオウンドメディアを成功させるのは難しそうだ」と感じているかもしれない。
確かに、オウンドメディアはパートナー会社のサポートを得たほうが、早く成功しやすいのは事実である。なぜなら、オウンドメディアにはすでに効果が実証された手法が数多く存在するからだ。正解をゼロから自社で探るより、正解を知っている会社に教えてもらったほうが圧倒的に近道である。
では、“オウンドメディアの正解を知っている会社”を選ぶためには、どうすれば良いのか。見るべき3つのポイントを紹介しよう。
(1)オウンドメディアで仕事を獲得できているか
最もわかりやすく、かつ重要な指標は「オウンドメディアで仕事を獲得できているか」である。
オウンドメディアを運営していない会社は論外であるが、オウンドメディアを運営していても、オウンドメディアから新規案件を獲得できていない会社は、オウンドメディアの正解を知らない。
候補会社との商談で、ストレートに「御社の新規案件獲得で、最も多い入り口は何ですか?」と聞いてみよう。よどみなく「オウンドメディアです」と返ってくる会社は、オウンドメディア制作のパートナーとしてふさわしい。
逆に、ハッキリと答えが返ってこない会社や、オウンドメディアからの案件獲得が少ない会社は、パートナー候補から外そう。
(2)コンテンツマーケティングのマインドがあるか
Web会社と一口にいっても、得意・不得意がある。例えば、アーティスティックなデザイン性に強みを持つ会社もあれば、セールス力の高いランディングページ制作が売りの会社もある。
間違った会社を選ぶと、オウンドメディアの方向性が間違ったほうへ引っ張られてしまう。注意が必要だ。では、オウンドメディア制作の依頼先として正しい会社とは何か。「コンテンツマーケティングのマインドを持つ会社」である。
本記事の前半でも述べた通り、オウンドメディアはコンテンツマーケティングの系統に属するWebサイトだ。よって、コンテンツマーケティングの考え方を熟知しており、“オウンドメディアを通したコンテンツマーケティングの実現”をサポートするスキルが、パートナー会社には必須である。
少なくとも、コンテンツマーケティングの概念から伝えないと理解してもらえない会社は、絶対に選んではいけない。
簡単な見極め方としては2つある。1つめはコンテンツマーケティング案件の実績を確認すること。2つめは商談時にコンテンツマーケティングの話を振ってみることだ。
例えば、印象に残っているコンテンツマーケティング案件の事例、コンテンツマーケティングにおいて大切だと思うことなど、候補会社の担当者とコンテンツマーケティングの話をしよう。話の内容が的を射ていて納得できれば、コンテンツマーケティングのマインドを持つ会社だ。
なお、注意点として、あなた自身にコンテンツマーケティングの素養がないと判断が難しい。商談前に「コンテンツマーケティングとは?|広告費ゼロで10倍の売上を達成した手法」に目を通しておこう。コンテンツマーケティングの基本が理解できる。
(3)健全な強気を持っているか
オウンドメディアを協働して構築していくうえでは、「何でも言うことを聞いてくれる、従順な制作会社」は避けるのが賢明だ。
パートナーには「健全な強気」を持っている会社を選びたい。健全な強気を持っている会社とは、ときにはクライアントであるあなたの依頼を断り、より良い方法やあなたが思いつきもしない新しい方法を提案してくれる会社だ。
オウンドメディアに関する深い知見と経験に裏付けされた自信がないと、健全な強気は出てこない。具体的には、打ち合わせ中に以下のようなフレーズが出てくる会社は、健全な強気を持っている。
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「その方法は良いですね。一方で、ほかの選択肢としては3つあります。1つめは〜」
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「なるほど。今回そのコンテンツは避けるべきかと思います。なぜなら〜」
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「この点は、こうするともっと良くなるはずです。というのも〜」
ただ依頼されたことを依頼された通りにこなすのではなく、あなたとディスカッションしながら、より良いオウンドメディアを一緒に作り上げていく。そんな健全な強気を持つ会社をパートナーに選ぼう。
8. オウンドメディアの運営で注意したい3つのポイント
ここまでお読みいただいたあなたは、オウンドメディアを立ち上げ成功させるためのエッセンスをつかんでいるはずだ。
今すぐにでも実践に取りかかってほしいところだが、あなたのオウンドメディアが思わぬつまずきをしないために、注意してほしいポイントが3つある。
ひとつずつ見ていこう。
(1)ポリティカル・コレクトネスを意識する
ポリティカル・コレクトネスとは、人権に配慮して差別や偏見を避けるために、公正で中立な表現を使うことだ。
1980年代に米国で発祥した概念だが、日本国内にも広く浸透している。ポリティカル・コレクトネスの考え方に基づいて言い換えが進んでいる表現の事例としては、以下が挙げられる。
- 看護婦・看護士 → 看護師
- 女優 → 俳優
- スチュワーデス → キャビンアテンダント
- ビジネスマン → ビジネスパーソン
例えば本記事においても、本文中で「営業マン」という言葉を使わず「営業パーソン」と言い換えるなど、ポリティカル・コレクトネスに配慮している。
「表現によって誰かを傷つけないように」というオウンドメディアとしての倫理観が必要なのはいうまでもないが、加えて近年では、オウンドメディアの炎上リスクにも備える必要がある。
CM・Webムービー・Twitterの投稿……と、企業の表現をきっかけとして、頻繁に炎上が起きやすい世間の空気があることは、否定できない。
あなたのオウンドメディアが発信した表現で誰かを傷つけていないか、誤解を招く表現はしていないか。常に自問自答が必要だ。
(2)法律違反・権利侵害に留意する
オウンドメディアを運営するうえでは、さまざまな法律や権利に配慮する必要がある。
知っておくべき法律・権利
企業にもよるが、オウンドメディアを運営するうえで知っておきたい法律や権利には以下がある。
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景品表示法
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薬機法(医薬品医療機器等法)
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個人情報保護法
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著作権
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肖像権
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パブリシティ権
例えば、各社のサービスを比較した「おすすめの●●サービス10選」のコンテンツで、競合企業のサービスより自社のサービスのほうが優良であると伝えたい場合は、景品表示法の「比較広告の不法表示」にあたらないよう細心の注意が必要だ。
あるいは、化粧品ブランドの「お客様の声」コンテンツで、「この化粧品を使ったらお肌が治りました!」という声を掲載すれば、薬機法に違反する可能性が高い。
さらに、他メディアに掲載されているテキストや画像の転載は著作権侵害、人物の画像(SNS含む)掲載は肖像権侵害、有名人の画像(SNS含む)掲載は肖像権とパブリシティ権侵害のリスクがある。
オウンドメディアなら規制はゆるくてOKは誤解
「オウンドメディアは、広告やECサイトでの表現よりゆるい規制でOK」と誤解している企業があるが、危険である。確かに、マス広告やECサイトよりも見つかりにくい(摘発されにくい)一面はあるが、法的なリスクの重さは同じだ。
特に注意してほしいのは、中小企業のオウンドメディアだ。法務部があり日頃からリーガルリスクに備えている大企業や上場企業と異なり、危機感が低くなりやすい。
法務リスクへの危機感が低いままオウンドメディアを運営すると、企業・ブランドの好感度を損なうのみならず、最悪なケースでは摘発や裁判といった事態を引き起こす。リスクマネジメントとして、オウンドメディアの責任者と担当者は法律まわりの知識をつけ、適切なチェック体制を作って運営してほしい。
(3)Webアクセシビリティに配慮する
Webアクセシビリティとは、高齢の方や障がいを持つ方も含め、誰もがWeb上で提供される情報や機能を支障なく利用できることだ。
オウンドメディアがWebアクセシビリティに準拠することは、必須である。なぜなら、オウンドメディアにとって、良いUX(ユーザーエクスペリエンス、ユーザー体験)を達成することは最重要だからだ。
「オウンドメディアに掲載した情報を誰もが支障なく利用できる」ことは、オウンドメディアの必要最低限の条件といえる。
具体的な規格は、内閣府サイトの方針を参考にすると良いだろう。「ウェブアクセシビリティ – 内閣府」に掲載されている。一部引用すると、以下の通りだ。
仕様について
・文字化けを起こす可能性のある丸付き数字、ローマ数字など機種依存文字や半角カタカナについては使用を禁止します。
・多くの方がわかるように、省略語、専門用語、流行語、俗語の使用を極力避け、必要に応じて解説をつけます。
タイトル・表示形式について
・階層や各ページを示すパンくずナビを提供します。
・ページのレイアウトにおけるリンク・ボタン等は識別しやすく、操作しやすい統一された大きさ、レイアウトにします。
・各ページに内閣府ロゴを表示させ、内閣府トップページへリンクさせます。
・他のページへの移動手段としてサイトマップと検索窓を各ページに提供します。
・情報を探しやすくなるよう、各ページに内容が連想しやすいタイトルを付けます。
画像について
・画像ファイルには必ず適切・具体的に画像を説明できる代替テキストを表示します。
表について
・適切に情報が伝わるように、できる限り単純な構造と見出しを設定します。
・レイアウトを目的とした表の利用は極力避けます。
実践が難しいような項目はない。積極的に取り組もう。
9. ユーザーに溺愛されるオウンドメディアを作るために
最後に、あなたの手がけるオウンドメディアがユーザーに溺愛されるために、「常に心に留めてほしい大切なこと」をお伝えして、本記事の締めくくりとしたい。
途中でやめない
オウンドメディアを成功させる最大のコツは、途中でやめないことだ。オウンドメディアの運営メンバーに求められる資質は、強い意志を持って根気よく続ける粘り強さである。
なぜなら、オウンドメディアの効果が目に見えて明らかになるまでには、時間がかかるからだ。時には、諦めそうになることも、無駄に思えることもあるかもしれない。そこで、“いかに強い気持ちを持ち続けられるか”が、オウンドメディアの明暗を分ける。
知っておいてほしいのは、オウンドメディアの効果はキレイな右肩上がりではないということ。あるとき、加速度的に爆発することが多い。
もしオウンドメディアを途中でやめそうになることがあったなら、上の図を思い出して踏みとどまってほしい。何が何でも、やり続けよう。
とことん想像せよ
ユーザーの役に立つ良質なコンテンツを作るために最も必要なスキルは何だろうか。それは「ユーザーに対する想像力」だ。
ユーザーは何に悩んでいるのか?どんな気持ちでいるのか?いつ・どこで・どんなデバイスで見ているのか?次に知りたくなることは?など、ユーザーのことを徹底的に想像するに尽きる。想像力なくして有益なコンテンツは作れない。
ただし、注意したいのは「想像」と「妄想」は異なるということだ。根拠なく頭の中で考えているだけでは、妄想になってしまう。
妄想に陥らないためには、検索キーワードの調査、オウンドメディア内でのユーザーの動き、各コンテンツのPVやシェア数、読了率や回遊率など、さまざまなデータから多角的にユーザーを想像しよう。
データは、漠然と数字を眺めているだけでは何の役にも立たないが、その数字の意味を解釈し、ユーザーの姿を想像すれば、実に多くのことを語ってくれる。
ユーザーに対する想像力が加速するほど、あなたのオウンドメディアがユーザーを惹きつけることは間違いない。
ライバルは競合ではない
ビジネスにおいて競合(コンペティター)を意識することは重要だ。しかしオウンドメディアで、競合企業のオウンドメディアにばかり気を取られるのは良くない。
マーケティングの考え方のひとつとして「moreやbetterのコミュニケーションでは勝てない」というものがある。競合企業と比較して「もっとある」「より良い」という評価軸で商品を作っても、時間の問題でまた競合企業に抜かされる。不毛な追いかけっこが続くのだ。
同じことがオウンドメディアにもいえる。「競合と比べて良いコンテンツ」を求めても、その先に待っているのは消耗戦だ。一時的に検索エンジン上位を獲得しても、時間の問題で他のコンテンツに抜かされる。
不毛な追いかけっこから抜け出すためには、競合よりも良いコンテンツではなく「競合とは違う自社のオリジナルコンテンツ」という視点が必要だ。あなたの企業・ブランドのユーザー(顧客)の役に立つ、独自の情報を発信しよう。
ライバルは競合ではなく自分自身だ。比較対象は自分たちの過去。常に過去最高を更新し続けよう。
ユーザーの幸せにコミットしよう
オウンドメディアは何のためにあるのか。究極的には、ユーザーの幸せのためだ。あなたの企業・ブランドのユーザー(顧客)の幸せにコミットしよう。
ユーザーの幸せのために、あなたのオウンドメディアが実践すべき最も重要なことをお伝したい。
「与えて、与えて、与えまくれ!」
ユーザーの利益になるコンテンツを、降り注ぐように届けよう。出し惜しみした瞬間、オウンドメディアの息の根は止まる。合言葉は「Give, Give, Give, Give and Give!」だ。さあ、ユーザーに溺愛されるオウンドメディアを始めよう。
まとめ
オウンドメディアとは有益なコンテンツを提供する自社運営サイトのことである。
オウンドメディアの目的は広告ではない「付加価値のあるコンテンツ」によってユーザーの日常に企業やブランドとの接点を作り、その接点を通じてファンを増やすことだ。
オウンドメディアの運営によって、新規顧客の獲得や既存顧客の育成をはじめとするビジネス課題の解決が可能になる。
本記事では、実践手法や注意点についても詳しく解説した。あなたの企業・ブランド独自のオウンドメディアを運用し、ユーザーの役に立つことを通して、真のファンを増やし続けてほしい。ここまでお読みいただいたあなたなら、必ずできるはずだ。
コンテンツマーケティングをより深く理解したい方へ。バズ部のノウハウを全て詰め込みました。