「GA4の探索レポートって何ができるんだろう?使い方がよくわからない……」
Googleアナリティクス(GA4)を導入した後、使い方に悩む担当者は少なくない。とりわけ、GA4の目玉機能である「探索レポート」は、標準レポートとは異なる独特のUIと設定方法に戸惑う方が多いようだ。
しかし、探索レポートは、活用しないと“もったいない”強力な分析ツールである。使わなければ、GA4の真の価値は引き出せない。競合に差をつけるチャンスを逃してしまう。
本記事では、GA4探索レポートの基礎知識から実務での活用例まで解説する。具体的な設定手順や分析のコツなども詳しく紹介しているので、初心者の方でも安心して読み進められるはずだ。
探索レポートを使いこなすスキルを身につけ、ビジネスで大きな成果を手にしてほしい。
目次
1. GA4探索レポートの最初に知っておきたい基礎知識
最初に、GA4探索レポートを扱ううえで知っておきたい基本事項を確認していこう。以下のポイントを解説する。
- GA4探索レポートとは何か?
- 標準レポートとの違い
- 探索レポートを使わないのはもったいない
- 注意:探索レポートを使う前にデータ保持期間を14カ月に延長しておく
なお、GA4自体の基礎確認が必要な方は、先に「GA4とは?【わかりやすく図解】初期設定から見るべき指標までわかる」に目を通してから、この記事に戻ってほしい。
1-1. GA4探索レポートとは何か?
Googleアナリティクス4(以下GA4)の「探索レポート」とは、GA4に用意されたカスタム分析機能である。
標準レポートでは決められた範囲で基本的な数値を確認できるが、探索レポートを使えば、より自由度の高いレポート作成が可能だ。
GA4の前身であるユニバーサルアナリティクス(UA)でいう「カスタムレポート」に近い機能であり、欲しいデータを自分で設計して深掘り分析できる。
1-2. 標準レポートとの違い
標準レポートと探索レポートの大きな違いは、レポートの柔軟性とデータ処理にある。
標準レポートはあらかじめ集計・処理されたデータを表示しており、定常的なモニタリングに適している。一方、探索レポートは生のイベント単位・ユーザー単位のデータをその場で読み込んで分析できるため、より詳細な切り口でデータを可視化できる。
たとえば、標準レポートでは難しいファネル分析(目標到達プロセスの可視化)や経路解析(ユーザーフローの可視化)なども、探索レポートなら実現可能である。
その場の必要性に応じた臨機応変な分析(アドホック分析)や仮説検証には探索レポートが適しており、GA4利用者にとって欠かせない機能といえる。
1-3. 探索レポートを使わないのはもったいない
簡単にいえば、「標準レポートでは欲しいデータが見られない」と思ったときこそ、探索レポートの出番だ。
GA4上で自由に分析ができる探索レポートは、ユーザー行動の深層を理解し、施策に活かすための強力な武器となる。GA4を使っているなら、この探索機能を活用しない手はない。
加えて、UA時代からGoogleアナリティクスを使っている担当者にとっては、探索レポートの使いこなしが鍵となる。GA4はUAと比べてイベント駆動型の柔軟な計測が可能になったが、その真価を引き出すには探索レポートの活用が不可欠だからだ。
GA4を使っているのに探索レポートを使わないのは、宝の山を半分しか掘っていないようなものである。
1-4. 注意:探索レポートを使う前にデータ保持期間を14カ月に延長しておく
ここで注意点がある。探索レポートを使い始める前にあらためて確認してほしいのが、GA4のデータ保持期間の設定だ。初期設定のままでは2カ月になっているので、14カ月に変更しておこう。
GA4管理画面より[データの収集と修正]→[データの保持]にて設定できる。この設定をしていないと、2カ月分の分析しかできなくなってしまうので注意したいポイントだ。
2. GA4探索レポートの基本機能とアップデート情報
ここからは実践の話に移っていこう。具体的にどのような分析ができるのか、以下のポイントを解説する。
- 7種類の分析テンプレート
- 便利な機能(共有・保存・タブ活用)
- 最新アップデート情報(執筆時点)
2-1. 7種類の分析テンプレート
GA4探索レポートには7種類(空白を含めると8種類)の分析テンプレートが用意されており、それぞれ異なる分析手法を提供している。
自由形式
任意のディメンション(属性)と指標を組み合わせたクロス集計ができる基本形式。Excelのピボットテーブルのように、行や列を自由に設定できる点が特徴である。
ビジュアラゼーションの選択を変更すると、同じデータを円グラフ・折れ線・棒グラフなどさまざまな表示方法で確認できる。
ファネルデータ探索
「コンバージョンに至るまで」など、任意のユーザーのステップを可視化する。ステップごとの離脱率を確認し、ボトルネックになっているページやイベントを特定できる。
経路データ探索
ユーザーがサイト内をどのように遷移しているかツリーグラフで表示する。UAの行動フローに近く、特定ページやイベントを始点として、次にたどるページや離脱ポイントを分析できる。あるいは逆に、コンバージョンしたページなどを終点として、直前までの行動をさかのぼることもできる。
セグメントの重複
複数のユーザーセグメント間の重複度合いを集合の関係図(ベン図)で表示する。たとえば「自然検索で来訪したユーザー」と「会員登録したユーザー」の重複部分を把握すると いった分析が可能だ。
ユーザーエクスプローラ
個別ユーザーの行動履歴をユーザーごとに追跡する。特定ユーザーのサイト内でたどったページ遷移の流れを、時系列で確認できる。
コホートデータ探索
共通の属性や期間でグループ化したユーザー群(コホート)の定着率・維持率を分析する。たとえば、初回訪問のユーザーが翌週以降に再訪している割合を測定する。
ユーザーのライフタイム
ユーザーごとの累積の価値(LTV:顧客生涯価値)を分析する。たとえば「再購入が多いユーザーを獲得できている流入元はどこか」といった長期的指標を評価するために役立つ。
空白
何も設定がない白紙の状態からレポートを作成する形式。ほかのテンプレートでは対応できない自由な分析設計をイチから行いたい場合に使用する。
***
探索レポートでは、これらテンプレートを活用しながら、多彩な視点の高度分析ができる。標準レポートでは見られない形式でデータを視覚化できる点が、探索レポート最大の特徴だ。
2-2. 便利な機能(共有・保存・タブ活用)
探索レポートには分析テンプレート以外にも、便利な機能がそろっている。作成したレポートはGA4プロパティ内で共有したり保存したりが可能で、チームメンバーと分析結果を共有できる(共有には閲覧者も当該GA4プロパティへのアクセス権限が必要)。
共有された探索はほかのユーザーの画面には閲覧専用で表示されるが、各自で[複製]して編集を引き継ぐこともできる。
また、1つの探索プロジェクト内で複数のタブ(レポート)を作成できるため、関連する分析をまとめて管理できる。たとえば「タブ1:全体分析」「タブ2:特定セグメント分析」といった形で、1つの探索内に複数ビューを持たせることが可能だ。
2-3. 最新アップデート情報(執筆時点)
GA4探索レポートはリリース後も継続的に機能拡充のアップデートが行われている。押さえておきたい直近の追加機能をいくつか紹介する。
標準レポートからのエクスポート
2024年より、標準レポート画面からワンクリックで同じ内容の探索レポートを自動生成できる機能が追加された。標準レポート右上の[このレポートを分析にエクスポート]をクリックすると、そのレポートと同じ設定の探索レポートが作成される。
「標準レポートで概要は見えているが、もっと深掘りしたい」という場合に、手軽に探索レポートへ移行して追加分析が可能だ。
また、探索レポートの初心者にとっても、この機能は学習に役立つ。自動生成されたレポートの設定を確認しながら、自力で作成する際のコツをつかめるからだ。
他プロパティへのコピー
2024年末から順次、探索レポートを別のGA4プロパティへコピーできる機能が導入された。
探索レポート一覧にて、当該データの右端にある縦3点ボタンよりコピーできる。
以前は、レポートの共有が同一プロパティ内に限られていたため、複数サイトで同じレポートを使い回す場合などに毎回作り直す必要があった。
このアップデートにより作成したレポートをひな型として、ほかのプロパティへ展開できるようになった。複数サイト運用の企業にとって、効率化につながる有用な機能強化である。
参考:アナリティクス ヘルプ「[GA4] Google アナリティクスのプロパティ間でレポートとデータ探索をコピーする」
セグメントの保存
GA4探索では分析に用いたセグメント(ユーザー条件やイベント条件のフィルタ)を再利用できるセグメントとして、プロパティに保存できるようになっている。
これも比較的新しいアップデート(2024年10月)で、一度作成したセグメントをほかの探索レポートでも呼び出せるため、分析のたびに同じ条件を作り直す手間が省ける。
参考:アナリティクス ヘルプ「[GA4] セグメント ビルダー」
このようにGA4探索レポートは着実に進化しており、使い勝手や分析力が向上している。次章から実際の使い方を見ていこう。
3. GA4探索レポートの使い方(初心者向け)レポートを作ってみよう
GA4の探索レポートは、一見するとUIが複雑で初心者にはハードルが高く感じられるかもしれない。しかし、画面の構造と操作の手順を理解すれば、けして難しくない。
ここでは初心者でもわかるよう、探索レポート作成の基本ステップを具体的に解説する。
- 探索メニューへ移動して形式を選択
- レポート編集画面の構造
- 「変数」のセット(ディメンション・指標の追加)
- 「設定」のセット(表示項目となる行・列・値の指定)
- フィルタやセグメントの適用
- 表示行数の調整
- グラフへの切り替え
なお、前述のとおり、探索レポートにはテンプレートが用意されている。初心者には基本設定が用意されたテンプレートから始めるのがおすすめだが、ここでは、操作に慣れるために「空白」からレポートを作ってみよう。
3-1. 探索メニューへ移動して形式を選択
GA4の管理画面左側メニューから[探索]をクリックする。すると[探索]トップページが表示され、利用可能なテンプレート一覧が並ぶ。今回は[空白]をクリックしよう。
3-2. レポート編集画面の構造
探索レポートの編集画面が開いたら、画面が左と右の2つのエリアに分かれていることを確認しよう。
左側には[変数][設定]のパネルがある。分析対象の期間や使用するディメンション(分析軸となる属性)・指標・セグメントを設定するエリアだ。右側はレポート出力エリアで、指定した項目に基づいて表やグラフが表示される。
実際にやることは、「左側のエリアに必要項目をセットすること」だ。すると、右側のレポートエリアに結果が自動反映される流れとなる。
3-3. 「変数」のセット(ディメンション・指標の追加)
まず、左側にある変数パネルのセットを進めていく。
最初に、データ探索名(任意)とデータの期間(分析対象期間)を設定しよう。次に[ディメンション]と[指標]へ、分析に使いたい要素を設定する。
ディメンション・指標って何?
「ディメンション」は分析の軸となる要素のことだ。簡単にいえば、グラフの「項目名」がディメンションにあたる。たとえば「アクセス数推移のグラフ」があって、「10代・20代・30代」と項目が分かれていたら、この「10代・20代・30代」の部分が、ディメンションで設定するべき要素である。
一方、「指標」はデータを数値で表した“ものさし”を指し、前述の例なら「アクセス数」が指標にあたる。
探索レポートでディメンションや指標を追加するときには、ディメンションや指標の項目の右端にあるプラスボタン[+]をクリックする。
膨大な選択肢が表示されるため、初めは戸惑うかもしれないが、これらをすべて覚える必要はない。その都度、分析したい要素をGoogleなどで検索して、どの項目を選べばいいのか調べよう。
たとえば、ページ別PV数をタイトルごとに見たい場合、ディメンションで “ページ タイトルとスクリーンクラス” を、指標で “表示回数” をそれぞれ[+]ボタンから選択する。すると、選択した項目が左パネルのリストに追加される。
最初は1指標×1ディメンションから
指標もディメンションも、複数の項目を設定できる。
しかし、一度に多くの項目を入れすぎると混乱しやすい。初めのうちは、1つの指標を特定の切り口で分解することから始めよう(例:“セッション数”を日付別に見る、“コンバージョン数”をチャネル別に見るなど)。
慣れてきたら指標やディメンションを増やして、複雑な分析に挑戦するとよい。
3-4. 「設定」のセット(表示項目となる行・列・値の指定)
次に、変数のパネルでセットしたディメンション・指標を実際のレポートに反映させるために、設定パネルの行・列・値に項目を割り当てる。
[行]にディメンションを、[値]に指標を入れると、ディメンション別の指標集計を表示できる(列は、ディメンションが複数ある場合に使う)。
先の例では、[行]の「+」をクリックして“ページ タイトルとスクリーンクラス”を選択し、続いて[値]の「+」をクリックして“表示回数”を選択する。すると右側エリアに、各ページタイトルごとの表示回数(PV数)の一覧表が表示される。
これでレポートは完成だ。あとは、必要に応じて以下の設定をしていこう。
3-5. フィルタやセグメントの適用
必要に応じて、データに「フィルタ」や「セグメント」を適用しよう。
設定パネルを最下部までスクロールすると[フィルタ]の項目がある。ここに条件を設定すると、レポート全体のデータを絞り込める。
たとえば特定のページに関する分析に限定したければ、フィルタに “ページタイトルとスクリーンクラス=(そのページのタイトル)” を指定する、といった具合である。
また、[セグメント](ユーザーの絞り込み条件)を使えば、「新規ユーザーのみ」「特定の参照元から来たユーザーのみ」といった分析も可能だ。セグメントは変数パネルで追加してから、設定パネルのセグメントの比較で適用させる。
初心者のうちは、まずフィルタやセグメントの設定なしで全体傾向を見て、慣れてきたら条件を加えていくとよい。
3-6. 表示行数の調整
デフォルトの表は、上位10行しか表示されない。多くの項目を分析したい場合は、設定パネルの[表示する行数]を増やそう。
たとえば、サイトの全ページのPV数ランキングを見たい場合、行数を十分大きな値(100行など)にしないと全貌がつかめない。必要に応じて適宜変更するとよい。
3-7. グラフへの切り替え
初期状態では表形式(テーブル)で表示されるが、設定パネルの[ビジュアリゼーション]で折れ線グラフや円グラフなどに切り替えることもできる。
たとえば、日別のアクセス推移を分析するなら折れ線グラフにすると傾向を直感的に把握しやすい。適したグラフを選ぶことで洞察を得やすくなるだろう。
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以上が探索レポート作成の基本的な流れである。まとめると、「変数で項目をセット」→「行・値を設定」→「結果を確認」というステップになる。最初は戸惑うかもしれないが、一度手を動かしてみれば、操作自体はシンプルだと実感できるはずだ。
4. GA4探索レポートを実務で活用する具体例
さて、ここからはより実践的な内容をお届けしたい。
- SEO対策
- コンテンツマーケティング
- ECサイト
- BtoBマーケティング
上記、それぞれの場面での具体的な活用例を紹介する。
ただし、探索レポートに不慣れな段階で読み進めると、混乱を招くかもしれない。まずはレポートの基本的な使い方に習熟してから、これらの活用例に取り組むことをおすすめする。
4-1. SEO対策
SEO対策をビジネスに直結させるうえで重要なのは、どの経路からのユーザーが定着し、コンバージョンにつながっているかを正確に把握することだ。GA4探索レポートなら、リピート率やランディングページ別の成果などを柔軟に調べられる。ここでは流入経路やページ単位の分析手法を見ていく。
流入チャネル別のユーザー定着分析
SEOの成果を評価するには、検索流入したユーザーがリピートしてくれているか、質の高いトラフィックかを知ることが重要だ。
コホートデータ分析を使えば、たとえば「初回流入がGoogle検索だったユーザー」と「初回流入がSNSだったユーザー」のそれぞれについて、週次のリピート率(ユーザー維持率)を比較する、といったことができる。
設定例としては、セグメントとして “ユーザーの最初の参照元” に ‘googleを含む’ と ‘x.comを含む’ を用意し、それぞれのユーザーが週ごとに再訪している割合を可視化する。
こういった分析により、SEO(オーガニック検索)経由のユーザーの方がSNS経由より定着率が高い、といった洞察を得られれば、今後はSEO流入をさらに強化するといった戦略判断につなげられる。
ランディングページの成果分析
SEOで獲得したオーガニックトラフィックが、サイト内でどのようにコンバージョンに至っているかを把握するために、ランディングページ別のコンバージョン率を確認することも有効だ。
探索レポートでディメンションに “ランディングページ” 、指標に “セッション” と “キーイベント” を設定すれば、各ランディングページごとの流入数とコンバージョン数を同時に一覧できる。
※ただし、事前にコンバージョンをキーイベントに設定しておく必要がある。
ユーザーフローの可視化(内部導線分析)
オーガニック検索で来訪したユーザーがサイト内をどのように遷移しているかは、コンテンツ配置や内部リンク最適化のヒントになる。
経路データ探索を使えば、特定のページを起点としてユーザーが次にどのページに進んでいるか、あるいはどこで離脱しているかをツリー形式で視覚化できる。
たとえばセグメントを ‘オーガニックトラフィック’ に絞り、ノードのステップ1以降を “ページ タイトルとスクリーン名” に設定して特定のページをクリックすると、そのページから先のユーザーフローが一望できる。
結果、「ページAから多く遷移するページは商品ページBで、そこで離脱が多い」などが判明すれば、商品ページBに関連コンテンツを追加する、内部リンクを最適化するといった改善施策を検討できる。
4-2. コンテンツマーケティング
続いてコンテンツマーケティングの分析に移ろう。
コンテンツマーケティングでは、記事や動画などのコンテンツがユーザーにどう受け止められ、どの程度成果につながっているかを評価する必要がある。GA4探索レポートなら、カテゴリごとのパフォーマンスやエンゲージメント度合いを細かく分析しやすい。ここでは代表的な活用例を示す。
カテゴリ別コンテンツのパフォーマンス測定
オウンドメディアなどコンテンツマーケティングでは、記事やページをカテゴリごとにグルーピングして効果測定することが多い。
探索レポートではフィルタ機能を使って特定カテゴリのページ群に対象を絞り込み、そのグループ内でのトラフィックやコンバージョンを分析できる。
たとえば記事URLにカテゴリ名が含まれている場合、「“ページパスとスクリーンクラス” に ‘/blog/seo/’ を含む」といったフィルタを設定すれば「SEOカテゴリの記事群」のみのデータに絞って表示可能だ。
「SEOカテゴリ記事の月別PV推移」「当該カテゴリ全記事の合計コンバージョン数」といった集計が容易に行え、カテゴリ単位でコンテンツ戦略の効果を評価できる。複数カテゴリで同様のレポートを作成し比較すれば、どのコンテンツ分野がビジネスに貢献しているかが見えてくるだろう。
ユーザーエンゲージメントの深掘り
コンテンツの質を測る指標として、ユーザーのエンゲージメント(滞在時間やスクロールの深度、再訪率など)がある。
GA4探索では指標をカスタマイズできるため、“平均エンゲージメント時間” や “スクロール率(90%スクロールのイベント発生率)” などを指標に設定し、記事ごとや著者ごとに比較するといった分析も可能だ。
たとえば自由形式で “ページタイトル” を行に、指標(値)に “平均エンゲージメント時間” を選べば、各記事のエンゲージメントを一覧化できる。これをランキングすれば「ユーザーが読み込んでいる(滞在時間の長い)人気記事」が判明する。反対に滞在時間が短い記事は、内容改善やリライトの候補になるだろう。
このように探索レポートを用いれば、標準レポートでは見落としがちなユーザーの行動品質まで含めてコンテンツ評価ができ、質の高いコンテンツ作りに活かせる。
コンバージョンへの貢献分析
コンテンツマーケティングの究極の目的は、見込み顧客の獲得やコンバージョンにつなげることだ。探索レポートを使えば、記事ページ→コンバージョンページへの誘導率や離脱率を詳しく分析できる。
たとえばBtoBサイトの資料請求フォームがコンバージョン地点だとすると、ファネル探索で「ブログ記事閲覧」→「サービス紹介ページ閲覧」→「フォーム到達」→「送信完了」というステップを設定すれば、ユーザーがどの段階で離脱しやすいか(逆にどのコンテンツ経由だと完遂しやすいか)を可視化できる。
仮に「サービス紹介ページで大きな離脱が発生している」とわかれば、コンテンツの訴求力改善やUI見直しなど対策ができる。
4-3. ECサイト
ECサイトでは、商品ページからの離脱やカート放棄率など、購買までのステップをいかに最適化するかが鍵になる。GA4探索レポートのファネル機能や流入元別分析は、売上やLTVを向上させるための具体的な指針を提供してくれる。ここでは、代表的な3つの活用例を挙げる。
流入元別の売上分析
ECサイトでは広告やオーガニック検索、メールなどさまざまなチャネルからユーザーが訪れる。探索レポートを使えば流入元(チャネル)別の売上貢献を詳細に分析できる。
たとえば、ディメンションに “デフォルトチャネルグループ”、指標に “キーイベント(コンバージョン)数” や “購入による収益” を設定すれば、各チャネル経由の購入件数・売上額を比較可能だ。
さらにセグメントを使って「新規ユーザー」「リピーター」に分けて指標を設定すれば、新規獲得に強いチャネルとリピート購入に強いチャネルの違いも浮き彫りになる。標準の集客レポートよりも自由に指標を組み合わせられるため、マーケティング施策ごとのLTV視点での評価に役立つだろう。
セグメントの重複で潜在顧客層を明確化
ECサイトでは、セグメントの重複テンプレートを使い、年齢・性別・再訪ユーザーなど複数のセグメントを重ね合わせて、ユーザーの重複度合いを視覚化すると、潜在顧客層の特徴が浮き彫りになる。
単一セグメントだけでなく重複セグメントで行動傾向がどう変わるのか、差分を検証すると追加施策の余地を導きやすい。
探索レポートでは、簡単な操作でさまざまなパターンを瞬時に図解でき、直感的に把握できるのがメリットだ。ECサイトのユーザー像を立体的に捉える手助けとなるだろう。
購買ファネルの最適化
ECサイトでは商品閲覧から購入完了までのプロセスをいかに最適化するかが重要だ。ファネルデータ探索のテンプレートを使うと、「カート追加→情報入力→購入完了」といった購買ステップごとの離脱率を詳細に追える。
各ステップ間のコンバージョン率(遷移率)を探索レポート上で確認すれば、「カート投入までは順調だが、決済ページで大きく離脱している」などボトルネックが一目瞭然だ。
その洞察をもとに、フォームUI改善や決済手段の追加など具体的施策を検討できる。標準レポートではここまで柔軟な分析は難しく、探索レポートだからこそ得られる実務上のメリットである。
プロモーション効果測定
ECサイトではセールやクーポン施策など特定期間のプロモーション効果を分析するケースも多い。その際は期間比較レポートを作成すると便利だ。
たとえば「セール期間中1週間」と「通常週」のデータを2つのセグメントに分けて、それぞれのセッション数・売上高・購入率を同じ表で並べて表示すれば、一目で効果の増減が把握できる。
さらに経路データ探索でセール期間中のユーザーフローを追跡すれば、普段と異なる行動パターン(特定カテゴリへの集中など)が見つかるかもしれない。探索レポートの柔軟性を活かせば、このようにイベント施策の検証も思いのままだ。
4-4. BtoBマーケティング
BtoB向けのサイトでは、資料請求やセミナー申し込みなどコンバージョンまでに複数段階を踏むケースが多い。また、商談や契約に至るまでの期間も長めになるため、長期的な視点でリードを育成しながら成果を見極める必要がある。GA4探索レポートはライフタイム分析やファネル設定を柔軟に活用できるため、こうしたBtoB特有の要件にも適している。
長期的なリード育成分析
BtoBサイトでは、ユーザーが初回訪問から商談・契約に至るまで、長い時間軸で複数回の接点を持つケースが多いことは前述のとおりだ。ユーザーのライフタイム探索を活用すると、各ユーザーの最初の訪問以降の累計行動価値を追跡しやすい。
あるいは、「初回訪問時に資料請求を実行したユーザー」と「複数回の訪問を経て資料請求に至ったユーザー」をセグメントで分けて、コホート分析で、それぞれの再訪率やコンバージョンまでの経路を時系列で比較する。初期接触で動かない潜在顧客が、どのタイミングで行動を起こすのかを具体的に把握しやすい。
さらに流入チャネル(検索広告・オーガニック検索など)を加味して同じ視点で評価すれば、予算配分やコンテンツ強化の方針決定にも役立つ。
コンテンツ接触から商談への経路分析
BtoBではホワイトペーパーのダウンロードやメルマガ登録など、コンバージョンに至る前段階の接触イベントが複数存在する。探索レポートでマルチステップのファネルを構築すれば、ユーザーがどの順序でコンテンツに接触し、最終的に主要コンバージョン(問い合わせなど)に至ったかを可視化できる。
先ほどコンテンツマーケティングの項で触れたとおり、「ブログ閲覧→サービスページ→資料請求フォーム→送信完了」のようなファネルを作成し、それぞれの歩留まりを見れば、どの段階にボトルネックがあるか、分析できる。
また、特定のパス(例:ブログ経由 vs セミナーLP経由)で成果に差があるかをチェックすることも有効だ。
これによって効果的なリードナーチャリング経路を発見し、コンテンツ配置やCTAの改善を図る打ち手が見えてくる。
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以上のように、GA4探索レポートはさまざまな業種・目的で応用可能な柔軟性を持つ。重要なのは、自社のKPIや課題に応じて「どんな分析をすればヒントが得られるか」を発想し、それを探索レポート上で形にすることである。
5. GA4探索レポートの強みと限界
最後に、本記事の総括もかねて、GA4探索レポートの強みと限界をまとめておこう。
- GA4探索レポートの強み(できること)
- GA4探索レポートの限界(できないこと)
5-1. GA4探索レポートの強み(できること)
GA4探索レポートには、マーケターにとって魅力的な強みが多く備わっている。
分析の自由度が高い
まず第一に分析の自由度が高い。7種類の豊富なテンプレートとカスタマイズ可能なディメンション・指標により、自社のニーズに合わせた詳細な分析ができる。標準レポートでは見られない視点(例:ユーザー単位の行動の流れや複数セグメントの交差など)でも、探索レポートなら分析できる。コホートやファネルなどの高度なレポートもクリック操作だけで生成可能だ。
セグメントやフィルタの柔軟性が高い
第二の強みはセグメンテーションやフィルタリングの柔軟性である。任意の条件でユーザーやイベントを絞り込んで指標を比較できるため、「自社にとって意味のある切り口」だけにフォーカスしたレポートを作れる。
探索レポートは、GA4が保持する生のイベントデータを自在に切り出して可視化できるため、アイデア次第でさまざまなインサイトを引き出せる。この柔軟性とパワーこそ探索レポートの最大の強みであり、GA4の真価を引き出す鍵だ。
GA4内で完結する利便性
さらに付随する利点として、GA4インターフェース上で完結する手軽さも挙げられる。外部BIツール(*1)を使わずともGA4内で高度分析ができるため、データエクスポートの手間や他ツールとの連携設定が不要だ。無料で使える点も含め、中小企業や現場マーケターでも導入障壁が低いのはありがたいポイントである。
*1:BIツールとは、ビジネスインテリジェンスツールの略称で、企業内の膨大なデータを収集・分析し、意思決定に役立てるためのソフトウェアを指す。Tableau、Power BI、Looker Studioなどが代表的だ。
5-2. GA4探索レポートの限界(できないこと)
一方で、GA4探索レポートにも知っておくべき限界や、不得意な領域も存在する。
過去データに弱い
まずデータ面では、参照できる履歴データの範囲に制限がある。前述のように最大14カ月までしか過去データを保持できず、それより古い期間の分析には対応できない。長期的な傾向分析(年次推移の比較など)を行いたい場合、探索レポート単体では不十分であり、BigQuery(*2)へのエクスポートによるデータ蓄積が別途必要になる。この点はGA4探索レポートの構造的な限界といえる。
*2:BigQueryとは、Google Cloudの高速・大容量データ分析サービスだ。非常に強力なツールだが、使いこなすにはSQLやデータウェアハウスなどの専門知識が必要となる。また、無料枠を超える利用には料金が発生する。詳しくはGoogle公式の「BigQuery エンタープライズ向けデータ ウェアハウス」にて確認してほしい。
精密なデータが取れないケースもある
GA4固有のデータ収集ロジック(しきい値処理やサンプリング)によっては、探索レポート上で一部データが抽出されない場合がある。とくに、ユーザー属性に関わるデータや膨大なイベント数の分析では、この制約により「正確な数値が取れない」ケースもあり得る。
無料版GA4では一定件数を超えるデータで、サンプリングが発生する可能性がある。つまり、処理負荷を軽減するために、すべてのデータを分析に使わず、一部を抽出して用いるということだ。
ビッグデータ分析の精度という観点では、限界があることを知っておこう(精密なデータが必要なら、前述のBigQuery活用が選択肢となる)。
共有やコラボレーションに弱い
機能面では、リアルタイムの共有やコラボレーションに弱いという制約がある。探索レポートはGA4プラットフォーム内部の機能であり、たとえばLooker StudioのようにURLひとつで誰にでも共有できるダッシュボードとは異なる。共有相手はGA4への閲覧権限が必要で、複数ユーザーが同時編集したりコメントを付けたりといったコラボレーション機能もない。
よって、探索レポートは、取引先やクライアントなど社外への提出や、経営層への定期報告の用途には不向きだ。“あくまで分析者が自分で深掘りするためのツール” という側面が強い。報告用途には、探索で得た知見をもとにLooker Studioなどでレポートを構築するほうが適している場合が多いだろう。
※Looker Studioの使い方は「Looker Studioの使い方を図解でわかりやすく解説【初心者でも簡単】」の記事にて詳しく解説している。
サイト内データの分析に特化しており外部データに弱い
さらにいえば、GA4探索レポートはWebサイト内データの分析に特化したツールであり、SEOの外部データやほかのマーケティングチャネルのデータ(広告費用やCRMデータなど)までは扱えない。ほかのデータソースとの結合分析をするには結局BigQueryやBIツールが必要になるため、分析範囲はGA4にトラッキングされたデータに限定される点も認識しておきたい。
***
まとめると、GA4探索レポートは「GA4内のユーザーデータを徹底的に掘り下げる」ことに長ける反面、「長期のデータ蓄積」や「複数データソース統合」「広範な共有」には限界があるといえる。
14カ月以上の長期分析にはBigQuery、経営向けレポートにはLooker Studio、といったようにほかのソリューションと組み合わせて使い分けるのが望ましいだろう。
もっとも、こうした限界はGA4探索レポート自体の価値を損なうものではない。むしろ強み・弱みを正しく理解し、標準レポート・探索・他ツールを適材適所で使い分けることが、GA4活用の極意である。
6. まとめ
「データは力なり」というが、GA4探索レポートはまさにその力を引き出すための鍵だ。超初心者であっても、本記事で解説したポイントを踏まえつつ実際に手を動かせば、GA4探索レポートの有用性を実感できるだろう。
ぜひ探索レポートを活用し、データに裏打ちされたマーケティングで大きな成果を手にしてほしい。冒頭でも触れたとおり、GA4を使っているなら、探索レポートを活用しないともったいない。さっそく分析業務に役立てていこう。