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11/27水19:00〜20:00
ニーズとは「人が必要としていること」であり、別の表現をすれば「企業が自社の商品・サービスによって、満たそうとする隙間」である。
マーケティングに携わるなら、かならず理解してきたい必携知識だが、混乱している人が多い。
混乱の理由は、もとは同じ「ニーズ(Needs)」という言葉でも、日本語訳が混在していたり(例:欲求/需要/要求)、モデルごとの定義によってニーズの指す意味が変わったりすることにある。
この記事では、まず、
「ニーズとは何か、きちんと理解したい」
という方に向けて、普遍的な考え方が身につくように、解説する。
そのうえで、以下5つのモデル(フレームワーク)に整理し、それぞれ紹介する。
● 顕在ニーズ/潜在ニーズ
● マズローの欲求段階説(ニーズ・ヒエラルキー)
● 5種類のニーズ(明示された/真の/明示されていない/喜びの/隠された)
● 3つの顧客ニーズ(機能的/社会的/情緒的)
● ニーズ/ウォンツ/デマンド
言葉の定義や概念を正しく理解することは、正しい仕事につながる。
多くの人がわかったつもりになっている「ニーズ」を深く知り、顧客のニーズを満たす、価値ある仕事を成し遂げよう。
ニーズとは何か。
冒頭でも触れたが、まず最初に押さえてほしい普遍的な捉え方は、次の2つである。
● ニーズとは「人が必要としていること」
● ニーズとは「企業が自社の商品・サービスによって満たそうとする隙間」
それぞれ解説しよう。
ニーズとは「人が、必要としていること」を指す。
ニーズ(needs)の辞書的な意味は、以下のとおりだ。
▼ needの意味:
●(~を)必要[入り用](とする状態), 要望[欲求, 要求]
● 需要, 必要とされる[求められる]こと, 必要性
出典:ビジネス技術実用英語大辞典V6
人が必要としていることは、欲求、要望、要求、需要、願望など、さまざまな形で表出しているかもしれない。
必要としていることに気づいている(顕在的)なこともあれば、気づいていない(潜在的)な場合もある。
それらを包括し、普遍的な捉え方として押さえたいのは、
「その人が、必要としていることを、ニーズと呼ぶ」
という考え方である。
もうひとつの視点は、ニーズとは、
「企業が自社の商品・サービスによって満たそうとする隙間」
である、ということだ。
世の中に存在するあらゆるビジネスは、「顧客のニーズを満たすこと」と関係している。
だから、ビジネス、マーケティング、セールス、カスタマーサポート、デザイン、システム、その他、あらゆる分野において、ニーズは最も熟慮されるべき事項のひとつである。
顧客のニーズを探索し、研究し、その形状やサイズを正確に把握して、ぴったりと合うピース(=商品・サービス)を創造する。それこそが、ビジネスの根源である。
原語が「Needs」であっても、日本語では、欲求/要求/需要など、さまざまな訳語が当てられてきた。
そのため、
「欲求とニーズは違う」
とか、
「それは願望であってニーズではない」
といった不毛な議論に陥りがちだ。
ニーズ自体は幅広い意味を持っている。何を指してニーズと呼ぶかは、定義によって異なる。
まずは、全員が同じ見解を持つように用語を定義し、前提をそろえることが重要だ。
たとえば、有名な《マズローの欲求段階説》も、原語は「Needs(ニーズ)」である(Maslow’s Hierarchy of Needs)。日本語では「欲求」の訳語が当てられているが、ニーズのモデルなのだ。
次章以降、マズローの欲求段階説を含む、さまざまなニーズのモデルやフレームワークを紹介する。
● 顕在ニーズ/潜在ニーズ
● マズローの欲求段階説(ニーズ・ヒエラルキー)
● 5種類のニーズ
● 3つの顧客ニーズ
● ニーズ/ウォンツ/デマンド
それぞれ別のコンセプトとして、分けて捉えることが大切だ。以下で詳しく見ていこう。
最初に紹介したいのは、《顕在ニーズ/潜在ニーズ》である。
ニーズを2つに分けただけのシンプルさゆえに、汎用性が高く、よく知られているフレームだ。
顕在ニーズも潜在ニーズも、「顧客が必要としていること」という点は共通だが、本人の意識下にあるか・無意識下にあるか、という違いがある。
「顕在ニーズ」は、顧客自身が明確に認識しているニーズや、表現しているニーズを指す。
たとえば、
「コーヒーを飲みたい」
と顧客が思い、コーヒーを必要としていたら、それは顕在ニーズである。
顧客自身が、そのニーズに気づいているからだ。
一方、「潜在ニーズ」とは、顧客自身が意識していないが、存在しているニーズを指す。
前述の例に照らせば、
「コーヒーを飲みたい」
という顕在ニーズの奥には、意識されていないが存在しているニーズがあるかもしれない。
たとえば、以下のようなものだ。
▼ 潜在ニーズの例:
● 「イライラを落ち着けたい」
● 「贅沢な気分を味わいたい」
● 「まだ家に帰りたくない」
同じ「コーヒー」でも、潜在ニーズ次第で「どんなコーヒーを、どんなスタイルで提供すべきか?」が変わってくる。
あるいは、潜在ニーズを満たせるなら、かならずしもコーヒーである必要はない。
「顧客が抱える潜在ニーズに焦点を当てて、顧客に提供する価値を最適化する」ことが重要だ。
潜在ニーズは、あらゆるビジネスにとって、極めて重要である。
たとえば、私たちが取り組んでいるコンテンツマーケティングにおいても、
「潜在ニーズがわからなければ、何も始まらない」
といっても過言ではない。
「顧客の潜在ニーズに気づくことがあなたのビジネスにとって重要な理由」に詳説しているので、目を通してほしい。
この後、5つのモデルを紹介していくが、
「ビジネスにとって最重要である潜在ニーズを捉えるために、他のモデルを利用する」
という視点で読み進めていただくと、持ち帰れるものが多いだろう。
《マズローの欲求段階説(ニーズ・ヒエラルキー)》は、心理学者のアブラハム・マズローが提唱した、人間が持つ5つのニーズのモデルである。
マズローのモデルの特徴は、人間のニーズを5つの階層に分け、
「下層のニーズが満たされるごとに、次のニーズに取り組む」
と捉えていることである。
生理的欲求が満たされると、安全欲求、安全欲求が満たされると社会的欲求……、という具合だ。
上記のうち、3〜5階層の「社会的欲求・承認欲求・自己実現欲求」は、前述の「潜在ニーズ」と親和性が高い。
しかし、「3つの違いがよくわからない」という声も聞く。以下で5階層を順に解説するので、この機会に明確に理解しておこう。
1階層めの「生理的欲求」は、人が身体的に健康を維持し、生存できるようにするためのニーズを指す。
▼ 生理的欲求の例
● 飲食
● 睡眠
● 休息
生きていくために満たさなければならない基本的なニーズが、生理的欲求である。
2階層めの「安全欲求」は、人間が安全や安心を求めるニーズを指す。
▼ 安全欲求の例
● 安全な住居
● 防犯
● 医療保険
● 経済的な安定
身体的な安全だけでなく、精神的・社会的な安全も含まれる概念だ。
3階層目の「社会的欲求」は、英語の「Love and Belonging(愛と所属)」で理解すると、わかりやすいだろう。
結婚して家庭を築く、学校や会社に所属する、など、他者との社会的なつながりを求めるニーズである。
▼ 社会的欲求の例
● 学校
● 職場
● 結婚・家庭
1〜2階層の生存や安全のニーズが満たされると、
「ひとりぼっちはイヤだ」
「社会の中で居場所がほしい」
というニーズが出てくる、ということだ。
4階層目の「承認欲求」は、
「他者から尊重されたい、認められたい、高く評価してほしい」
というニーズである。
▼ 承認欲求の例
● 学歴
● キャリア
● 所得
● 地位
● 名誉
3階層めの社会的欲求が満たされ、社会における居場所が確保されると、今度は承認欲求が出てくるのだ。
承認欲求が満たされると、次はどうなるのか。最終段階の5階層は「自己実現欲求」である。
他者からどう思われるかは関係なく、“自分がどうありたいか?”に行き着く。
「自分自身を成長させ、自分らしさを発揮し、自分の美学や信念に沿った生き方をすることで、自己満足を得ようとするニーズ」
が自己実現欲求であり、他者の視点からは解放されている。
▼ 自己実現欲求の例
● 人生の目標
● 自分らしいライフスタイル
マズローの欲求段階説の解説は以上だ。
より詳しく知りたい場合、インターネット上でアクセスできる情報としては、聖路加看護大学紀要 第35号(2009)掲載の「マズローの基本的欲求の階層図への原典からの新解釈」がある。
原典を踏まえた深い考察がなされており、マニアックな専門性を求める人におすすめである。
《5種類のニーズ》は、マーケティングの現場で活用されることの多いフレームだ。
このフレームの捉え方で重要なポイントは、
「顧客のニーズは、一見すると、相反するように見えることがある」
という視点である。
その理由は、顧客のニーズの表し方に違いがあるためだ。具体的に5つの違いがある。
「明示されたニーズ」は、顧客がはっきり述べたニーズ、という意味だ。
あなたが車のディーラーで、1人の顧客がやってきて、こう言ったとする。
「安い車が欲しい」
これは、明示されたニーズである。
「真のニーズ」は、顧客の口から出てくる言葉とはまた別に、顧客が本当に望んでいるニーズを指す。
たとえば、口では「安い車が欲しい」と言っていても、真のニーズは、
「イニシャルコストではなく、ランニングコストが安い車が欲しい」
かもしれない。
「明示されていないニーズ」は、顧客は口にしていないが、必要としていることである。
たとえば、内心、
「ディーラーには、値引きしてほしい」
と思っていたら、それは明示されていないニーズである。
「喜びのニーズ」は、“嗜好品的なニーズ”と捉えるとイメージしやすい。満足するために、余分なものを求めるニーズを指す。
たとえば、
「ドアミラーは、自動格納がいい」
「シートの色を変えたい」
など、なくても主要なニーズは満たされるものの、“あったらうれしい”ニーズである。
最後に、「隠されたニーズ」は、顧客自身が気づいていないことも多い、深層心理のニーズである。
《顕在ニーズ/潜在ニーズ》で紹介した、「潜在ニーズ」とほぼ同じものだ。
たとえば、隠されたニーズが、
「友人から、堅実な倹約家だと思われたい」
だとしよう。
ならば、勧めるべき車種が変わってくることがわかるだろう。
高級車を値引きして安く販売しても、顧客の隠されたニーズは満たされない。
「“堅実な倹約家が選択する、リーズナブルで質のよい車”というブランドイメージのある車」を、勧めるべきなのだ。
一方、また別の切り口で、
〈最終的に、すべての顧客ニーズは、機能的ニーズ・社会的ニーズ・情緒的ニーズの3つに大別される〉
とする論もある。
参考:3 Most Common Types of Customer Needs to Be Aware Of | HBS Online
機能的なニーズに比較して、社会的ニーズ・情緒的ニーズは、特定することが難しい。
だからこそ、特定できれば、商品・サービスのメッセージやディテールを調整して、顧客ニーズに最適化できる。
《3つの顧客ニーズ》について、ひとつずつ見ていこう。
機能的ニーズは、顧客が持っているニーズのうち、商品・サービスの機能性や、顧客が解決したいタスクに直接関わるものを指す。
たとえば、ひどい乾燥肌で悩んでいる顧客は、
「できるだけ保湿機能が高いクリームが欲しい」
と思う。
これは、機能的ニーズである。
社会的ニーズは、商品・サービスを利用するにあたって、
「他人から、どのように見られたいか?」
というニーズである。
前述の《5種類のニーズ》で、
「友人から、堅実な倹約家だと思われたい」
という例があったが、これは社会的ニーズである。
機能的ニーズは、購買行動の喚起に直接つながることが多いのに対し、社会的ニーズは二次的だ。
しかし、「最終的に、どの商品を選ぶか?」という意思決定の際には、強く影響することが多い。
たとえば、“保湿機能の高いクリーム”を買うとき、高級ブランド/自然派/ドラッグストア……などの選択肢から何を選ぶか、社会的ニーズに左右される。
情緒的ニーズは、社会的ニーズと同様に二次的なものだが、情緒的ニーズと社会的ニーズ違いは、“他者の視点があるか・ないか”、である。
情緒的ニーズは、他人からどう見られたいかではなく「顧客自身がどう感じたいか?」を意味する。
たとえば、
「動物実験をしている会社の化粧品は、気分的に使いたくない」
「自分へのご褒美として、高級ブランドを奮発したい」
などは、情緒的ニーズといえよう。
《ニーズ/ウォンツ》は有名だが、ニーズを理解するうえで、多くの人がつまずくポイントだ。そのため、あえて最後に取り上げている。
『現代用語の基礎知識』では、以下のとおり解説されている。
▼ ニーズ/ウォンツ【2019】
ニーズとは、人間の感じる欠乏状態での本質的な欲求を指し、「食べたい」「飲みたい」「休みたい」などの言葉で表現できる人間が共通して抱く欲求である。ウォンツとは、消費者の個性や性格、経験などによって特定化された欲求を指す。(後略)
出典:現代用語の基礎知識
ここまでに紹介してきたモデルにおける「ニーズ」とは、またニュアンスが異なるため、混乱しやすい。繰り返しになるが、他のモデルとは区別して、別個の概念として捉えよう。
「ニーズ」「ウォンツ」の2つのパターンと、「デマンド」を足した3つのパターンがあるので、ここでは3つを紹介する。
《ニーズ/ウォンツ》のモデルでは、人が根源的に抱える欲求を指して「ニーズ」と呼んでいる。
▼ ニーズの例
●「喉が渇いた」
先に紹介した《マズローの欲求段階説》のニーズと同義、と捉えるとわかりやすい。
このモデルの解説では、マズローの欲求段階説でいう「生理的欲求」が例示されることが多いが、かならずしも、生理的欲求だけではない。
文化や個性に依存せず、人間の性質として発生する欲求を指しており、1階層〜5階層まですべてが対象となる。
ウォンツは、ニーズを満たすために必要とする“商品・サービス・手段”を指す。
ニーズが、人間に共通する根源的な欲求であるのに対し、ウォンツは、その人の性格や文化、経験など、個性に依存する。
たとえば「喉が渇いた」という人間共通のニーズに対して、ウォンツの表出は人それぞれ、バリエーションに富んでいる。
▼ ウォンツの例
● 冷たい水
● 温かいハーブティ
● 牛乳
先に紹介した《顕在ニーズ/潜在ニーズ》のアプローチでは、顧客が抱える潜在ニーズによって、提供する商品・サービスを最適化することが重要だった。
一方、こちらの《ニーズ/ウォンツ》のアプローチでは、「ウォンツ(=それぞれの個性に影響を受ける)」に最適化する、という違いがある。
《ニーズ/ウォンツ/デマンド》と付け加えられることの多い「デマンド」は、直訳すると「需要」だ。
購買意欲や購買能力(予算など)も加味した、購入意向を指す。
ウォンツに、「購入できる価格」「買いたいと思う特徴」といった要素が加わると、需要(デマンド)が生まれる、という考え方だ。
企業は、価格を変えたり、商品・サービスの品質を変えたりすることによって、デマンドに影響を与えることができる。
思考プロセスとしては、
「ニーズ・ウォンツを区別して特定したうえで、デマンドが最大化するバランスで、商品・サービスを開発する」
という流れとなる。
本記事では「ニーズとは?」をテーマに解説した。
このように整理して捉えれば、きっと混乱していた方も、すっきりご理解いただけたのではと思う。
あなたの顧客のニーズを、よく研究すれば、ぴったりのピース(商品・サービス)を創造できる。すばらしいピースづくりを、進めてほしい。
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