「LLMO・AI対策」のいろいろな施策を実施してきた。
記事にFAQを足す。見出しをQA形式にする。AIに引用されるよう冒頭に定義文を置く。構造化データを整える。どれも「やったほうがいい」と言われれば、そんな気がするのでやってみた。順位レポートを見れば、数字も少し動いている。
ただ、進めるほどに違和感が消えない。これを全部やった先に、本当に売上が伸びるのか。
「売上、伸びないよね!?」
しかも妙なことに、こうした施策を実施すればするほど、「どこかにあるような会社」に近づいていく。
記事の冒頭はどこかで読んだような文に揃い、「選ばれる理由」のページは業界の標準テンプレートのようになる。
これらの小手先のLLMO施策の本当のリスクは、表示順位でも引用でもない。サイトを訪れた顧客に、ある一つのメッセージを静かに伝えてしまうことだ。
この記事では、小手先のLLMO施策がもたらす本当のリスクについて話したい。
目次
小手先のAI対策がもたらすリスク
LLMO・AI対策の効果を語るとき、議論はたいてい一点に集中する。
- 順位が上がるのか(候補に入るのか)
- 引用されるのか
- アルゴリズムの仕様変更で効果が消えるのではないか
ただ、小手先のAI対策の本当のリスクはそこではない。
本当のリスクは、サイトを訪れた顧客に、一つのメッセージが伝わってしまうことだ。
「この会社は、私に向けて書く気がない」
このメッセージはデータに残らない。順位レポートにも、引用数のダッシュボードにも出てこない。それでもサイトを開いた一人ひとりの中に確実に蓄積する。そしてある日、商談の質が落ちる。指名検索が伸び悩む。
これは実際に起きていることだ。あるお客様のサイトを見て正直に「リニューアル前のほうが良かったと思います。どうしたんですか?」と聞く。すると「時流に乗ってAIを意識しまして。でも実は、問い合わせ数が落ちてるんです」と返ってくる。こういうケースはざらにある。
小手先のAI対策に終始する最大のリスクはこれだ。
いつの間にか、ユーザーが静かに離れている状態。数字に現れないから怖い。

「小手先のAI対策」とは何を指すのか
「小手先のAI対策」とは、以下のような施策群だ。
- 既存記事の最下部にFAQを大量に追加する
- 見出しをすべてQA形式に書き換える
- AIに引用されることを狙って、汎用的な定義文を冒頭に挿入する
- 構造化データのマークアップだけを整え、コンテンツ本体には手をつけない
これらは「やってはいけない施策」ではない。技術的な下地として必要なものも含まれる。問題は別のところにある。これらが「AI対策の中心」として語られ、本来やるべきことの代わりに置かれていることだ。
読者は賢い。その魂胆にほとんど気付く。
場面1:読み手は「自分のために書かれてない」ことに気付く
開発会社を比較検討している担当者がいる。すでに3社から提案を受け、最後にもう1社、サイトだけ気になっていた会社を見にきた。
開いたのは「ヘッドレスCMS導入における失敗事例と回避策」というページ。まさに知りたいテーマだ。
スクロールを始めると、冒頭にこうある。
ヘッドレスCMSとは、コンテンツ管理機能と表示機能を分離したシステムのことです。従来のCMSと異なり、APIを通じてさまざまなフロントエンドに配信できる柔軟性が特徴です。
担当者は本文を読まずにタブを閉じ、別の会社の検討に戻る。
劇的な離脱ではない。本人も「離脱した」とは思っていない。ただ優先度がほんの少し下がった。それだけだ。
理由は単純だ。ヘッドレスCMS導入に本気で悩んでいる人間が、いまさら「ヘッドレスCMSとは」を読みたいわけがない。この定義から書き始めた時点で、書き手はこの担当者を読者として見ていない。
書き手にも事情はある。この定義文は、AI Overviewに引用されるために置かれている。汎用的で、正確で、引用しやすい。施策としては正しい。ただその「正しさ」は、目の前の読者にはこう翻訳される。
「この会社は、AIに引用される文章は書く。でも、私には書いていない」
このメッセージが届いた瞬間、優先順位が静かに下がる。離脱ほど目立たない。ただ「もう一度この会社を本気で検討する確率」が、わずかに削れる。それはどんなデータにも残らない。
比較:同じ論点を「人のために書く」とどうなるか
同じテーマを、AI引用ではなく目の前の比較検討者に向けて書くと、冒頭はこう変わる。
ヘッドレスCMSの導入を検討している段階で、社内の議論が止まる典型的な論点が3つある。「既存のWordPressからの移行コストを誰が見積もるのか」「フロント実装の内製/外注をどこで切るのか」「運用フェーズで、編集者がエンジニアなしでコンテンツを更新できるか」。本稿では、この3つの論点それぞれで、過去に導入が失敗した事例を扱う。
二つの冒頭の違いは、文章力ではない。「誰に向けて書いているか」が一文目から開示されているかどうか、だ。
AI向けの冒頭は、「ヘッドレスCMSとは何か」を知らない読者を想定する。実際にはそんな読者は記事に来ていない。それでも、AIに引用されるためにそう書く。
人向けの冒頭は、「導入を検討中で、社内議論が止まっている担当者」を具体的に想定する。読者は冒頭で「この記事は自分のことを分かっている」と判断でき、その先を読む動機が生まれる。
問題は、AI向けの冒頭を置いたサイトには、人向けに書き直す余地がほとんど残らないことだ。一つの記事に冒頭は一つしか置けない。AIに引用されるための冒頭を選んだ瞬間、目の前の読者に向けた冒頭は捨てている。
そしてこの選択は、サイト全体で繰り返される。1記事ごとに、目の前の読者への語りかけを少しずつ捨てていく。その積み重ねが、サイト全体から「わざわざ書く気はなかった」というメッセージを滲ませる。
場面2:AIに推薦されたのに、記憶に残らない
別のケース。
BtoB SaaSの導入を検討しているマーケティング責任者が、AI検索にこう尋ねた。
「営業組織15〜30名規模で、PLG型からSLG型への移行フェーズに入ったSaaS企業に強い、マーケティングオートメーションツールを教えて」
AIはA社とB社を推薦してきた。責任者は両社の「選ばれる理由」ページを開く。
A社のページ:
- 業界トップクラスの実績
- 万全のサポート体制
- お客様一人ひとりに寄り添った提案
B社のページ:
- 豊富な導入実績
- 充実したカスタマーサクセス
- 顧客の課題に寄り添う伴走支援
責任者は両方を読み終えて、「2社見たけど、違いがよくわからなかった」と感じ、別の業務に戻る。
ここで即離脱は起きていない。AIが推薦したという事実があるぶん、責任者は両社を「候補に値する会社」として認識している。
問題はその先だ。サイトのどこにも、AIが推薦した理由が書かれていない。なぜこの2社が「営業15〜30名、PLGからSLGへの移行期」に強いのか。「業界トップクラス」「寄り添う」しか並んでいなければ、責任者はA社とB社を区別できない。
結果、何が残るか。会社名は残らない。「AIに推薦された2社のうちの片方」という輪郭だけが残る。1週間後、社内会議で「あのツール、どこか良さそうな会社あった?」と聞かれて、責任者はこう返す。「あったような気がするけど、どこだったか…」。
候補リストには載った。でも、選ぶ理由が作れなかった。
しかも本人は「落とした」とは思っていない。「いい会社が見つからなかった」と思っている。だから二度目の接点も生まれない。
「業界トップクラス」「寄り添う」は嘘ではない。ただ、その言葉を選んだ時点で、目の前の読者を具体的に想定して書く意志が抜けている。AIが投げてきた問いの解像度に、サイトの解像度が追いついていない。このギャップが、推薦から発注へ進む確率を静かに削る。
ーーー
そして小手先の施策は、時間が経つほど効かなくなる。
検索の歴史がそれを示している。2011年のパンダアップデートでキーワード詰め込み記事が消え、2012年のペンギンアップデートでリンク操作で最適化したサイトが消え、2022年のヘルプフルコンテンツアップデートで意図に合わない量産コンテンツが評価を落とした。一貫しているのは、クローラーの読み方に合わせただけの施策は仕様変更のたびに価値を失い、読者に向けて書かれたコンテンツだけが残る、というパターンだ。
そしてAIは、この判定をさらに厳しくする方向に進んでいる。「読者の意図をどこまで解釈できるか」に振り切った技術だからだ。つまり、アルゴリズムが進化すればするほど、小手先のLLMOは意味を失っていく。逆に、目の前の読者に向けて書かれたものだけが残る。
向き合うべき問いは、AI対策の前にある
AI対策に違和感を持っているマーケ責任者・担当者にとって、いま本当に向き合うべき問いは、「どのAI対策施策をやるか」ではない。問いはもっと前にある。
- 自社が本当に勝てるニッチ領域はどこか
- その領域における顧客は、何を基準に意思決定しているか
- その意思決定軸に対して、自社は他社と決定的に何が違うのか
- その違いを、サイトのどのページが、どこまで具体的に語っているか
これらに答えがあれば、サイトのどの場所からも「この会社は、私たちのために、わざわざ書いている」というメッセージが伝わる。
逆に、これらを置き去りにしたまま施策だけを進めると、施策が増えるほど「わざわざ書く気はなかった」というメッセージがサイト全体に滲んでいく。
順番が逆なのだ。AI対策の前に、勝ち筋の整理がある。
なぜ「施策の前に根本」なのか、その構造をもう一段分解した記事もある。「マーケティングの根本 → SEOの基礎 → AI対策の施策」という3階層で、いま市場で売られている「AI対策」がどこで止まっているのか、判断軸を整理した内容だ。本稿で違和感を言語化できた読者には、合わせて読んでほしい。
その上で、自社の勝ち筋の整理から、サイトへの反映、AIクローラー対応までを90日で進める設計が、バズ部の「AI対策90日プログラム」だ。具体的な進め方は、サービスページ(https://lucy.ne.jp/services/ai-program)を参照してほしい。
小手先のAI対策が信頼を下げるのは、施策が下手だからではない。サイトを訪れた具体的な誰かに向けて「わざわざ書く」という、本来やるべきことを置き去りにしているからだ。
向き合うべきは、AIではない。サイトの向こうにいる一人ひとりの読み手だ。そして、その読み手に向けて「わざわざ書く」覚悟を持てる、自社の勝ち筋そのものである。




