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12/18水13:00〜15:30
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り、購入・利用する体験プロセスを旅になぞらえて、時系列でシナリオを作るマーケティング手法である。カスタマージャーニーの設計で作成するシナリオを、カスタマージャーニーマップと呼ぶ。
カスタマージャーニーは、顧客の行動や心理を深く理解すると同時に、具体的かつ効果的なアクションプランを設計するために非常に有益な手法だ。
カスタマージャーニーを使いこなせば、あらゆる商品・サービスで業績向上を狙える。新たなビジネスを立ち上げるうえでも、これほど使えるマーケティングツールはない。
しかしながら、近年では「カスタマージャーニー」という言葉の流行が先行し、本質を捉えないままに「カスタマージャーニーは使いにくい、使い方がよくわからない」と言っている人が多い。
これは、あなたにとってはチャンスである。ぜひ本記事を通してカスタマージャーニーの本質を理解し、カスタマージャーニーを実戦で役立てるスキルを身に付けてほしい。
本記事では、カスタマージャーニーの概念的な話に終始するのではなく、
「カスタマージャーニーはなぜ有益なのか、どう使えば効果が出せるのか」
にスポットを当てて解説を進めていく。さっそく始めよう。
目次
まずは「カスタマージャーニー」の基礎知識を、3分で解説しよう。
カスタマージャーニーを一言でいえば「顧客のブランド体験プロセス」のことだ。
【カスタマー(顧客)】が、ブランドやその商品・サービスを知り、購入したり利用したりする体験プロセスを【ジャーニー(旅)】になぞらえて、時系列でシナリオを作るマーケティング手法を「カスタマージャーニー」と呼ぶ。
カスタマージャーニーの考え方に基づいて作られるシナリオは「カスタマージャーニーマップ」と呼ばれる。
「顧客のブランド体験プロセスといわれても、正直イメージしにくい」
というあなたのために、まずカスタマージャーニーマップの実物をお見せしよう。
サービス名などは仮名だが、バズ部式のオリジナルテンプレートを使って、実際に作成されたカスタマージャーニーマップである。
旅のスタート(認知)から旅のゴール(成約)までの、顧客の旅路が一目瞭然で可視化されているのが特徴だ。
見ていただくとわかる通り、単に旅のルートを示すのではなく、顧客の行動・感情やブランドが実践すべきアクションプランまで、ひとつのマップ上で俯瞰できるツールが、カスタマージャーニーマップである。
カスタマージャーニーには「旅の主人公」と「旅のイベント」が存在する。
「旅の主人公」=ペルソナ
「旅のイベント」=タッチポイント(顧客接点)
という構造だ。
例えば、あなたはドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどのRPGゲームをプレイしたことがあるだろうか。あるキャラクターを持った主人公が、シナリオに沿って旅のイベントを体験するたびに成長していく。最終的には「魔王を倒す」などの旅の目的を達成して、ゲームクリアとなる。
カスタマージャーニーはRPGゲームに似ている。カスタマージャーニーでは、「主人公である顧客像ペルソナ」が、「タッチポイントで何らかの体験をする」たびに成長し、最終的なゴール(成約・購入など)へたどり着く。これが、カスタマージャーニーの仕組みだ。
※ペルソナやタッチポイントの具体的な描き方は、後ほど「5. カスタマージャーニーマップの作り方」にて解説するので、そちらを参照してほしい。
「カスタマージャーニーというマーケティング手法の特長は何か?」の問いに答えるなら、
シナリオのストーリー性
想像力を活性化するペルソナ
という2つの強みを持つことだ。
前述の通り、カスタマージャーニーでは顧客のブランド体験プロセスを「旅」になぞらえてシナリオを作る。これはつまり、マーケティング戦略にストーリー性を与えることにほかならない。
ストーリーの利点は大きく2つあり、1つめは理解しやすいこと。マーケティング戦略をストーリー化すれば、すべてのチームメンバーが戦略を容易に理解できる。
2つめの利点は共感しやすいことだ。顧客の姿をストーリーとして捉えることで、あなたもチームメンバーも、顧客に共感しやすくなる。顧客の気持ちが手に取るようにわかるから、おのずと何をすべきか見えてくるのだ。
カスタマージャーニーでは旅の主人公として「ペルソナ」を設定する。ペルソナとは実在するユーザーたちのデータをもとに作り上げる架空の人物のことだ。
ペルソナの利点は、あなたやチームメンバーの想像力を活性化することである。
まるで実在して今にも話し出しそうな旅の主人公(ペルソナ)を設定してから思考すると、想像力が最大限に活性化される。数字だけの調査データを漠然と眺めながら議論するのとは雲泥の差だ。
まとめると、カスタマージャーニーは、
「シナリオのストーリー性をマーケティング戦略に持ち込むとともに、ペルソナによって思考を想像力の面からサポートする手法」
といえる。
この優れた特長があるからこそカスタマージャーニーは成果を挙げやすく、多くのマーケティングカンパニーで採用されているのだ。
カスタマージャーニーマップは何のために作られるのか。本章ではカスタマージャーニーの目的を理解しておこう。
カスタマージャーニーの目的は「顧客と良い関係を構築すること」だ。顧客との良い関係は、売上アップに直結する。
ここでいう「顧客」とは、既存顧客はもちろん、まだあなたの商品・サービスを利用したことのない潜在顧客や見込み顧客も含む。
カスタマージャーニーによって顧客と良い関係を構築した結果、
新規顧客が増える
リピート率が上がる
客単価が上がる
購入回数が増える
などの成果が出て、業績が向上するのだ。
では、なぜカスタマージャーニーで顧客と良い関係を構築できるのだろうか。
その答えは、カスタマージャーニーを通して顧客を深く理解すると、顧客が何を求めているのか手に取るようにわかるからだ。
顧客を知り尽くしたあなたは、顧客に最高の体験をしてもらうために必要な行動ができるようになる。
これを人間関係に置き換えて想像してみよう。「私のことを深く理解してくれて、いつも最高の気分にさせてくれる人物」なら、会うたびにどんどん好きになっていき、最終的には大親友になるだろう。異性なら恋に落ちるかもしれない。
同じように、顧客にあらゆるタッチポイントで大満足してもらい、顧客と良い関係を構築することこそ、カスタマージャーニーの本質的な狙いだ。
ここまでお読みいただければ、カスタマージャーニーとは何なのか、基礎知識はしっかり身に付いたはずだ。
では実際にあなたの会社で、カスタマージャーニーマップの作成に取り組むべきだろうか。答えはもちろん、確信を持ってYESである。
カスタマージャーニーマップは、あらゆる企業・ブランド・商品・サービスにおいて、作ったほうが良い。その理由は3つある。
1つめの理由は「ユーザーに対する深い理解を獲得できる」からだ。
現代のマーケティングにおいて顧客理解の必要性に異を唱える者はいないだろう。ありとあらゆるところで、顧客視点の重要性が叫ばれている。
しかし「具体的にどうやって顧客やユーザーを理解するのか」となると、途端に漠然としている企業が多い。
「常にお客様の気持ちを考えて」
「ユーザーのニーズに寄り添って」
など、精神論的な努力目標に留まっているケースがほとんどである。
この点、カスタマージャーニーは違う。カスタマージャーニーマップの作成プロセス自体が、ユーザーに対する明確で具体的な理解を獲得する実践ステップになっている。
カスタマージャーニーマップを作成すれば、かつてないほど深くユーザーのことが理解できる。これは非常に大きなメリットといえるだろう。
2つめの理由は「タッチポイントごとに最適な手を打てる」からだ。
カスタマージャーニーでは、タッチポイントごとに顧客のブランド体験プロセスを細分化して把握する。
タッチポイントごとの顧客の行動や感情、課題が明らかになるため、顧客の「今の状況」に合わせたコミュニケーションが可能だ。
例えば、顧客が旅を続ける気力をなくして、旅をやめてしまうポイントを見つけたのなら、そのポイントを集中的に改善すれば良い。
カスタマージャーニーマップを作れば、旅の障壁をタッチポイントごとに解消して、ユーザーのスムーズで快適な旅を実現できるようになる。
3つめの理由は「チームの共通言語となる」からだ。
カスタマージャーニーマップは顧客の旅路を表したものであると同時に、チームメンバー全員が歩むべき方向性を明確に指し示す地図となる。
マーケティング、営業、接客、コンタクトセンター、デザイン、システム──といった部署を超え、すべてのメンバーが「同じ1枚の地図」という共通言語を持ったなら、何が起きるか。社内のあらゆるアクションが、カスタマージャーニーに基づいて最適化される。
チームの生産性は著しく向上し、ユーザーに最高のUX(ユーザー体験)を届けることが可能になるだろう。結果、顧客満足度が上昇し、企業にもたらされる利益は増大することは、当然の帰結である。
カスタマージャーニーマップには、さまざまな作り方がある。
そのバリエーションを知っていただくために、カスタマージャーニーマップのテンプレートを5つ、紹介しよう。参考までに見てほしい。
出典:Customer Journey Maps: The Top 10 Requirements – Heart of the Customer
出典:【DEMO LAB.】お客さまを知るためのカスタマージャーニーマップの作り方 | 株式会社デモ
出典:カスタマージャーニーマップ(CJM) | 東洋美術印刷株式会社(東京都千代田区)
出典:カスタマージャーニーとは?マップ作成の手順とポイント|コラム|リコー
出典:Journey Mapping the Customer Experience: A USA.gov Case Study – Digital.gov
どんなカスタマージャーニーマップが最適なのかは企業ごとの状況によるため、一概に断言できない。しかし、最初はできるだけシンプルなカスタマージャーニーマップで、本質をつかむのがおすすめだ。
次章では、バズ部式のテンプレートをベースに、実際の作り方をレクチャーしよう。
いよいよカスタマージャーニーの実践だ。カスタマージャーニーマップの作り方を解説する。
使うのはバズ部式オリジナルテンプレートだ。
バズ部式テンプレートの特長は、「カスタマージャーニーマップで成果を挙げる」ことに徹底フォーカスして、無駄を削ぎ落としていることである。
世に出回っているカスタマージャーニーマップは、複雑な項目や余計な装飾のせいで、作りにくいものが多い。しかし、結果を出すために本当に必要な要素は、実はシンプルなのだ。
カスタマージャーニーの作成に慣れてきたら、自社の状況に合わせて要素を足していただいても構わないが、まずはシンプルなテンプレートでカスタマージャーニーの骨子を学んでほしい。
まず、カスタマージャーニーマップを作成する流れをつかんでおこう。カスタマージャーニーマップは、以下の7ステップの手順で作成する。
▼ カスタマージャーニーマップの作成手順 7ステップ
ではステップ(1)から順に解説を始めよう。
ステップ1は「旅のスタートとゴールを決める」だ。
カスタマージャーニーマップの作成で解決したい課題や目的に合わせて、カスタマージャーニーマップごとに旅のスタートと旅のゴールを設定しよう。
カスタマージャーニーが特に得意とするのは「顧客との中長期的な関係構築が必要な課題や目的」だ。
例えば「見込み顧客の新規購入率を上げたい」なら、
旅のスタート【商品を知る】→旅のゴール【商品を購入する】
と設定して、商品を購入してもらえる関係の構築を目指そう。
あるいは「リピート顧客をロイヤルカスタマーに引き上げたい」なら、
旅のスタート【2回目の購入】→旅のゴール【5回目の購入】
となるかもしれない。
あなたが、カスタマージャーニーマップの作成によって、解決したい課題はなんだろうか。その課題に合わせて、旅のスタートとゴールを設定しよう。
旅のスタートとゴールを決める ToDo
・解決したい課題や達成したい目標に合わせて旅のスタートとゴールを設定しよう。
ここで、起業したばかりのSさんからの質問をケーススタディとして取り上げよう。
今までにないまったく新しい価値を提供する新サービスを開発中です。サービスの申込者を獲得するためにカスタマージャーニーマップを作りたいのですが、スタート地点をどうすべきかわかりません。既存の商品なら、ユーザーが商品を認知する地点をスタートにできると思いますが、ユーザー自身もまだ知らない新しい価値を提供したい場合には、どうすれば良いのでしょうか。
「スタート地点がわからない」という質問だが、スタート地点がわからない場合には、いったん空欄にしておく。
この後、ステップ(3)に[旅のイベント(タッチポイント)を明確にする]という工程が出てくる。ハッキリ見えていないタッチポイントを、明らかにしていく工程だ。
スタート地点がわからない場合には、ステップ(3)でスタート地点のタッチポイントも含めて検討することができる。ひとまず空欄にしたまま、次のステップに進もう。
ステップ2は「旅の主人公=ペルソナを設定する」だ。
カスタマージャーニーは「旅」であるから、旅する主人公が必要だ。カスタマージャーニーの主人公である「ペルソナ」を設定しよう。
ペルソナとは、実在するユーザーたちの具体的で明確なデータをもとに作成した架空の人物のことである。重要なのは、ペルソナは架空の人物ではあるが妄想で作るものではなく、必ず根拠となるデータから作る点だ。
数字やグラフばかりで味気ないユーザーの調査データを、「ペルソナという人物像」に変換することで、ただデータを眺めているよりも、ユーザー理解への想像力を爆発的に増大させるのがペルソナという手法の本質である。
ペルソナは以下の流れで作成する。
● ユーザーのデータを集める
● 共通項を抽出する
●人物像をペルソナシートにまとめる
それぞれ見ていこう。
まずはペルソナの根拠として利用できるデータを集める。
▼ 収集するデータの例
「ユーザーのデータを集める」というと、大がかりなリサーチが必要そうに聞こえるが、そんなことはない。各企業ごとの規模感に合わせて可能なデータを集めれば良い。
例えば、あなたが個人経営の小さな企業の経営者なら、取引先の担当者たちの情報をひとりずつまとめて「データ」を作ろう。
ここで重要なのは、大がかりなデータを集めることではなく「実在するユーザーの情報を集める」ことだ。実在するユーザーの情報を持たないままにペルソナを作ると、間違ったペルソナが生まれる。注意してほしい。
ユーザーのデータが収集できたら、それらのデータから共通項を抽出する。
共通項を抽出するコツを、身近な例で練習してみよう。
▼ データから共通項を抽出するレッスン
(1)まず、「あなたの友だちグループ」を思い浮かべてほしい。現在でも、過去の学生時代でも構わない。彼ら彼女らの共通項は何だろうか。例えば「みんな明るくてお酒が好きで、ノリがいいけど仲間思いで、いつも新作のゲームにハマっていて……」など、あなたの友だちグループをくくる共通項が見つかるだろう。
(2)次に、あなたの取引先の会社をひとつ、思い浮かべてほしい。仮にA社としよう。A社で働く社員たちにも共通項があるはずだ。例えば「みんなロジカルで頭が切れるのに、どこか体育会系の雰囲気もあって礼儀正しくタフ」といった具合に。これを兼ね備えている社員を見ると、「いかにもA社っぽい」と感じるだろう。
これと同じ作業を「ユーザーたちというグループ」に対して行っていく。具体的には、以下の視点を持って共通項を探ると良いだろう。
▼ 共通項を探るポイント
共通項を抽出するうえでデータが足りないと思えば、ユーザーと直接接している営業パーソンや接客スタッフにヒアリングしたり、ユーザーアンケートを実施したりして、データを補強しながら作業を進めよう。
共通項が抽出できたら、それらを言語化・ビジュアル化してペルソナシートにまとめる。
▼ ペルソナシートの例
ペルソナを有効に機能させるためには、「まるで実在する人物のように」ペルソナを仕上げることが重要だ。名前をつけ、写真やイラストなどのビジュアルを持たせることで、より実在の人物らしくなる。
旅の主人公=ペルソナを設定する ToDo
・ユーザーのデータを収集して共通項を抽出し、実在の人物のようなペルソナに仕上げよう。
ステップ3は「旅のイベント(タッチポイント)を明確にする」だ。
ステップ3以降で重要なのは、ステップ2で作成したペルソナの視点から世界を見ることである。
ペルソナは実在の人間ではないが、ここからのステップではミーティングにペルソナを参加させ、ペルソナに発言させる。チームメンバーは、ペルソナの話を聞きながら、カスタマージャーニーマップの完成を目指していく。
実際には「ペルソナの鈴木さんなら、なんと言うだろうか」と想像力を最大化させながら思考することになるが、おすすめの方法は「ペルソナ役」をミーティングに参加させることだ。
1人以上のチームメンバーをペルソナ役として任命し、ペルソナ役はペルソナの人物になりきって発言する。
ステップ3のミッションは「旅のイベント(タッチポイント)を明確にする」だ。ペルソナは、旅のスタートからゴールまでのプロセスで、どんな行動を取りブランドと接触しているのか、ペルソナ本人にヒアリングしていく。
例えば「商品を知り、公式サイトにアクセスし、SNSで評判を検討し──」といった具合に、ペルソナの行動を、ペルソナの話を聞きながら洗い出していこう。
タッチポイントの数は、あなたの会社が扱っている商品・サービスによっては膨大な数になる。例として掲載しているテンプレートの画像では、スペースの都合上5列しか表示していないが、必要なだけ列を増やして、あらゆるタッチポイントを洗い出してほしい。
タッチポイントを明確にする ToDo
・ペルソナの話を聞きながらタッチポイントを洗い出そう。
離島でラーメン店を経営しているUさんからの質問を見てみよう。
私は観光地の離島でラーメン店を経営しています。旅行者にラーメン店の存在を知ってもらい、来店者数を増やすためにカスタマージャーニーマップを作りたいと考えました。しかし、そもそもどのようにタッチポイントを作ったらよいのか、まったく見当がつきません。現時点でタッチポイントがないので、予測できないのです。
「タッチポイントが予測できない」というケースだが、こういうときこそ役立つのが「ペルソナ」なのだ。
Uさんがお店に来てほしいと願っている旅行者は、離島への旅行を計画し、離島を訪れ、帰っていくまでの間に、どんな行動を取るのだろうか。これを、ペルソナを活用してあぶり出す。
具体的には、自分がペルソナの立場になり切って、まるで自分がペルソナ自身であるかのように深く洞察する作業を行う。
すると必ず「この行動は、ラーメン店とペルソナのタッチポイントになり得る」という接点が見つかるはずだ。例えば、ペルソナが飲食店を探すときに「食べログ」を検索するのであれば、食べログがタッチポイントになり得る。
あるいは、ペルソナが宿泊している旅館でお酒を飲んだあと、ふと「ラーメン食べたいな」と思うのであれば、旅館にラーメンの出前サービスを提供して部屋にメニューを置いておくことが、タッチポイントになるかもしれない。
このように、ペルソナがもともと持っている行動パターンの道筋上に、タッチポイントを配置していくのが、成功するカスタマージャーニーのコツだ。
タッチポイントを予測できないときには、ペルソナになり切って、同じ行動をしてみよう。
ステップ4は「ペルソナの感情を想像する」だ。
ステップ3で明らかになったタッチポイントごとに、ペルソナはどんな気持ちでいるのか、想像しよう。
ステップ3と同じく、ペルソナの話を聞きながら感情を想像するのが重要だ。ペルソナは、どんな心理状態にあるのか。ネガティブなのか、ポジティブなのか、期待、不安、興味、恐れ、ワクワク、興奮、感動……など、微細な心の動きを捉えていく。
文字だけでなく、絵文字やイラストなどを使ってペルソナの感情を表現するのも、グッドアイデアだ。特に、旅を継続するうえで障壁となり得る感情があれば、見逃さずにカスタマージャーニーマップへ記載しよう。
ペルソナの感情を想像する ToDo
・ペルソナの話を聞きながらタッチポイントごとの感情を想像しよう。
ステップ5は「最高のUX(ユーザー体験)を考える」だ。
ステップ4までで、タッチポイントとペルソナの感情が明らかになった。ステップ5では、それぞれのタッチポイントごとに「ペルソナはどんな体験をできれば最高なのか?」を考えよう。
例えば「商品が自分に合っているのかざっくり知りたい」と思っているペルソナにとって、最高のUXとは「商品の概要がパッと見ですぐに理解できる」ことだろう。
すべてのタッチポイントにおいて、
「どんなUXを提供したら、ペルソナは満面の笑顔で大満足してくれるだろうか?」
と想像していく。もちろんペルソナの意見を聞きながら、マップに記入していこう。
最高のUXを考える ToDo
・ペルソナが最高に満足してくれるUXを考えよう。
ステップ6は「ユーザーの行動データを追記する」だ。
タッチポイント→ペルソナの感情→最高のUXと進み、次はアクションプランを決めるステップが控えているが、その前に取り組んでほしいのがユーザーの行動データの追記である。
ここまで、ペルソナと話しながらカスタマージャーニーマップの作成を進めてきたが、いったんペルソナとは離れて、実在するユーザーのデータを見に行く。
タッチポイントごとに関連性のあるデータをチェックして、ファクト(データで確認できている事実)を追記しておこう。目的は、次のステップで設定するアクションプランの精度を高めることだ。
例えば「公式サイトにアクセスする」というタッチポイントならば、公式サイトの直帰率や新規ユーザー割合などのデータを追記しておくと、アクションプランを作成するうえでのヒントになるだろう。
ユーザーの行動データを追記する ToDo
・タッチポイントごとに関連性のあるデータを追記しよう。
ステップ7は「アクションプランを決める」だ。これが最後のステップである。
カスタマージャーニーマップに記入した各要素をもとに、
「最高のUXを実現するために、私たちは何をすべきか?」
のアクションプランを決めていく。
ステップ6までのプロセスが的確にできていれば、ステップ7は「アクションプランを考える」というより「ただ決める」という感覚でスムーズに進むはずである。最適なアクションプランを導き出すための材料は、すべてそろっているからだ。
逆に、アクションプランがスムーズに決められず行き詰まってしまうようであれば、ステップ(6)までのプロセスが不完全な可能性が高い。焦らずにステップ(1)に戻って、じっくり取り組もう。
アクションプランを決める ToDo
・最高のUXを実現するために何をすべきかを決めよう。
以上で、カスタマージャーニーマップは完成だ。あとは決めたアクションプランを実行して、最高のUXを実現していくのみである。
「さっそくカスタマージャーニーマップを作りたい」とお考えのあなたに、知っておいてほしいことがある。
カスタマージャーニーには、多くの人が陥りやすい失敗があるのだ。対策とともに解説するので、あらかじめ把握して失敗を回避してほしい。
1つめは「ペルソナが妄想」という失敗だ。
先に述べた通り、ペルソナとは“実在するユーザーたちの具体的で明確なデータをもとに作成した架空の人物”のことだ。
しかし、ペルソナを扱う多くの人が、“実在するユーザーたちの具体的で明確なデータをもとに”の部分を理解していないか、知っていても軽視している。
結果、ただの妄想でしかないペルソナが大量生産されているのが現状だ。間違ったペルソナの話を聞きながらカスタマージャーニーマップを作成すれば、当然のことながら間違ったカスタマージャーニーマップができあがる。
このような失敗を避けるためには、「ペルソナの作り方」で解説した手順に従い、実在するユーザーたちのデータをもとにペルソナを作ることだ。
加えて、完成したペルソナの検証プロセスを導入することも有益である。ユーザーをよく知る人に、作成したペルソナがユーザーの共通項をとらえた適切な人物像となっているか、評価してもらうと良い。
例えば、ユーザーと直接接しているコンタクトセンターのオペレーターや接客スタッフ、営業パーソンたちは、ペルソナの評価を依頼するのにふさわしい人物である。あるいは、もし可能であれば、実際のユーザー自身にペルソナを評価してもらうのも良いだろう。
ペルソナが、作り手の独りよがりな妄想となっていないか、厳しくチェックしよう。
「ペルソナが妄想」の対策
・実在するユーザーのデータをもとにペルソナを作る。
・ユーザーをよく知る人にペルソナを評価してもらう。
・実際のユーザーにペルソナを評価してもらう。
2つめは「カスタマージャーニーのねつ造」という失敗だ。
ここまでお読みいただいたあなたなら、カスタマージャーニーとはどこまでもユーザー視点で、ユーザーの行動や感情をベースに設計すべきであることを理解しているだろう。
しかしながら、多くのカスタマージャーニーは、ユーザー視点で作成されていない。企業にとって都合の良いシナリオを作り上げ、その通りにユーザーを動かせば売上になるはずだという、傲慢な発想のもとにねじ曲げられている。
これは、カスタマージャーニーのねつ造だ。カスタマージャーニーのねつ造に陥らないためには、ユーザーの行動をベースにカスタマージャーニーマップを作成することである。
前述の通り、実在のユーザーを根拠としたペルソナを設定し、「ユーザーの行動や感情を観察しながら、カスタマージャーニーを探り当てる」という感覚でカスタマージャーニーマップの作成に取り組むと良いだろう。
カスタマージャーニーとは作るものではなく、見つけるものなのだ。
「カスタマージャーニーのねつ造」の対策
・ユーザーの行動をもとにカスタマージャーニーを設計する。
・カスタマージャーニーは作るのではなく見つける。
3つめは「カスタマージャーニーマップを作成して満足」という失敗だ。
カスタマージャーニーマップを作成するだけでは、何も起きない。重要なのは、作成したカスタマージャーニーマップをもとに、タッチポイントごとに最高のUXを実現することだ。最高のUXを実現するためのアクションプランを実行しないことには、カスタマージャーニーマップを作成した時間が無駄になる。
対策としては、アクションプランを決める際に、「いつまでに・誰が・何をやる」かをセットで決めておこう。
繰り返しになるが、カスタマージャーニーという手法は、アクションプランを実行して初めて成果となる。「カスタマージャーニーマップを作った後が重要」と肝に銘じてほしい。
「カスタマージャーニーマップを作成して満足」の対策
・アクションプランはいつまでに・誰が・何をやるかをセットで決める。
4つめは「カスタマージャーニーの変化に気づかない」という失敗だ。
どんなに完璧なカスタマージャーニーを作成したとしても、ユーザーは常に変化している。よって、ひとつのカスタマージャーニーマップが、永遠に機能し続けることはあり得ない。
具体例を挙げるなら、2020年の新型コロナウイルスはカスタマージャーニーに大きな変化をもたらした。例えば「リアル店舗での購買を好んでいたユーザーが、仕方なくオンラインで購買を行った結果、オンラインの便利さに気付き、その後も継続している」といった変化が起きている。
カスタマージャーニーの変化に気付かず、古くなったカスタマージャーニーマップを利用し続ければ、売上や顧客満足度は下降する。カスタマージャーニーはアップデートが必要なツールなのだ。
対策としては「最高のUX」が実現できているか、定点観察で効果測定を行おう。数字で評価できる指標に変換し、達成度を観察していく。達成度が低下すれば、その周辺のカスタマージャーニーに何らかの変化が起きたと予測できる。
同時に、カスタマージャーニーの定期的なアップデートもスケジュールしておこう。どれくらいの期間でアップデートすべきかは、それぞれの状況によって異なるが、少なくとも1年に1回はアップデートが必要だ。1年経てば、ユーザーの行動習慣は変化している可能性が高い。
常に「今、目の前にいるユーザー」にフォーカスして、カスタマージャーニーマップをアップデートし続けよう。
「カスタマージャーニーの変化に気づかない」の対策
・最高のUXが実現できているか効果測定を行う。
・定期的にカスタマージャーニーマップのアップデートを行う。
最後に、ここまで読んでくださったあなたへ「カスタマージャーニーで最高のUXを実現するための秘訣」をお伝えして、本記事の締めくくりとしたい。
より良いカスタマージャーニーを作るために最も重要なことを挙げるなら、それは実在のユーザーを知り尽くすことだ。
なぜなら、実在のユーザーを知り尽くして、より良いペルソナを生み出すことが、より良いカスタマージャーニーを作る源泉となるからである。
では、実在のユーザーを知り尽くすために、何をすれば良いのか。最も効果的な方法のひとつは、「生(ナマ)のユーザーと可能な限りダイレクトに接触すること」だろう。
例えば、コールセンターの録音データを聞く、メールでのやり取り履歴を読む、顧客のもとを訪れてヒアリングする、Zoomでユーザーインタビューを行う──など、ユーザーと接することで得られる情報量には、絶大なものがある。
実在のユーザーを知り尽くしたあなたなら、最強のカスタマージャーニーマップを作成できるはずだ。
カスタマージャーニーという手法を扱ううえで、初心者と上級者の明確な違いがひとつある。それは「どれだけ多角的な視点でタッチポイントを捉えられているか」である。
デジタル時代において、タッチポイントは増加し複雑化している。実際にカスタマージャーニーマップを作っていくと、タッチポイントの数が非常に多くなるケースもあるだろう。
現代の膨大で複雑なタッチポイントを攻略することが、ワンランク上のカスタマージャーニーマップを作るためには必要だ。
カスタマージャーニーマップをレベルアップしたいのなら、以下の2つの質問を、設定したタッチポイントに問いかけてほしい。
本当?
それだけ?
「本当?」と問いかけることでタッチポイントのつながりの的確さを、「それだけ?」と問いかけることでタッチポイントの抜け漏れをチェックできる。
「本当?それだけ?」を繰り返しながら、カスタマージャーニーマップに磨きをかけよう。
コロナ禍を経たニューノーマルやデジタル化の波で、私たちは大きな変化にさらされている。
時流に合わせてカスタマージャーニーをアップデートする必要性は先に述べたとおりだが、今こそ改めて本質に立ち返りたい。それは「徹底的なユーザー主義」だ。
時代の変化に適応することは重要だが、表面的なトレンドワードに踊らされて、本質を見失ってはならない。
カスタマージャーニーへの取り組みを、あなたの会社がユーザー主義に立ち返るきっかけとしてほしい。ユーザーの心理を深く理解し、ユーザーに最高の体験を届ける。世界で何が起ころうが、本質はたったこれだけなのである。
カスタマージャーニーの先に、ユーザーはどんな幸せを手にするのだろうか。あなたがそれを見通すことで、ユーザーの旅は最高のものとなるだろう。
カスタマージャーニーの真のゴールは、「商品を買っていただくこと」ではない。その先に、ユーザーがあなたの商品・サービスを手にしなければ体験し得なかった、“ユーザーの幸せ”が確かに存在する。
その幸せに向かって、ユーザーを支え導くことが、どこにもない最高の旅を作ることになる。あなたの真の役割は、ユーザーの幸せへの旅をガイドすることにほかならない。さあ、世界でひとつのカスタマージャーニーを始めよう。
カスタマージャーニーとは、顧客が商品やサービスを知り、購入・利用する体験プロセスを旅になぞらえて、時系列でシナリオを作るマーケティング手法である。カスタマージャーニーの設計で作成するシナリオを、カスタマージャーニーマップと呼ぶ。
カスタマージャーニーは、シナリオのストーリー性と想像力を活性化するペルソナを活用することで、精度の高いマーケティング戦略を構築できるツールである。
カスタマージャーニーマップを作るべき3つの理由は以下の通りだ。
(1)ユーザーに対する深い理解を獲得できる
(2)タッチポイントごとに最適な手を打てる
(3)チームの共通言語となる
本文中では、カスタマージャーニーマップの作り方を7ステップで解説した。
ステップ(1)旅のスタートとゴールを決める
ステップ(2)旅の主人公=ペルソナを設定する
ステップ(3)旅のイベント(タッチポイント)を明確にする
ステップ(4)ペルソナの感情を想像する
ステップ(5)最高のUXを考える
ステップ(6)ユーザーの行動データを追記する
ステップ(7)アクションプランを決める
カスタマージャーニーでは、以下の失敗に陥りやすいので注意してほしい。
失敗1:ペルソナが妄想
失敗2:カスタマージャーニーのねつ造
失敗3:カスタマージャーニーマップを作成して満足
失敗4:カスタマージャーニーの変化に気づかない
ユーザー主義に基づくカスタマージャーニーの実践は、ユーザーが幸せをつかむための旅をガイドする。本記事で解説した手順に沿って、さっそくカスタマージャーニーマップの作成に取り組んでほしい