ここ1年ほど、Webからの問い合わせが目に見えて減った、という声をよく聞く。AI OverviewsでPVが落ちた。SEOの流入が減った。
こうした会社の多くは、施策を増やすほうに動く。記事を増やす。FAQを整える。構造化データを入れる。広告を回す。しかし、それでも問い合わせは戻ってこない。
理由はシンプルだ。いま起きているのは「施策で解ける問題」ではなく、「マーケティングの根本があやふやだったツケが、AI時代になって表に出てきた」という構造の問題だからである。
「自社は何の専門家として、誰に、なぜ選ばれるのか」。この根本が定まらなければ、その上にどれだけ施策を重ねても効かない。これまではSEOや広告が、根本の曖昧さを露出と物量でカバーしてきた。AI時代は、そのカバーが効かなくなった、というだけの話である。
そして、根本のなかでも最初に言語化しなければならないのが「自社の強み」だ。強みが言語化されていれば、AIは御社を「答え」として紹介する理由を持てるし、サイトに来た顧客は「ここに頼むべき理由」を理解できる。
実際、私たちが支援するある士業事務所では、「相続に強い事務所」という抽象的な打ち出しのまま、Webからの問い合わせが伸び悩んでいた。その強みをターゲットごとに6,000字レベルまで具体化したところ、3ヶ月で問い合わせ数が2.6倍に伸びた。
ただ、この強みの言語化が、思っている以上に難しい。
この記事では、強みを実際に言語化していくための具体的なプロセスを書いていく。Webからの問い合わせを取り戻したい方は、参考にしてほしい。
目次
なぜ「強みは何ですか」では出てこないのか
強みを言語化するには、まずヒアリングが必要だ。経営者本人や、サービスに深く関わっている社員に話を聞いていく。
ただ、いざ「御社の強みは何ですか」と聞いても、ほとんどの場合、出てくるのは「技術力です」「実績が豊富です」「対応が丁寧です」といった、どの会社でも言える抽象的な言葉である。
理由はシンプルで、本人にとって強みは「日常」だからだ。
毎日やっていることは、自分にとっては当たり前すぎて、強みだとは認識されない。むしろ、本当の強みほど、本人は気づいていない。これが、強みの言語化を難しくしている根本の構造である。
事前にWebサイトを読み込んで仮説を立てるのも、ほとんど役に立たない。Webに自社の強みを正しく出せている会社が、ほぼ存在しないからだ。サイトを見ても「ふわっとこれかな」というレベルで、本当の強みは出てこない。
だから、「強みは何ですか」という質問はしないほうがいい。代わりに、一人のユーザーの体験を起点に、徹底的に細かく聞いていく。
一人のユーザーから掘り出す
ヒアリングの設計はシンプルだ。私たちはいくつか主要なターゲットグループに分け、それぞれ1.5〜2時間かけて細かく聞いていく。聞く順番はだいたい決まっている。
- どんな顧客か(業種、規模、状況)
- どんな課題を抱えていたか
- なぜ自社を選んだか
- 実際にどんなサービスを提供したか
- どんなプロセスで提供したか
- 顧客はどこで喜んだか
- 提供後、何が変わったか
このとき重要なのが、誰にインタビューするかだ。
役員クラスの偉い人ではなく、サービスにいちばん深く関わっている現場の人。なぜなら、強みは抽象的な戦略の話ではなく、具体的な提供プロセスの中に埋まっているからだ。現場で日々動いている人にしか、その細部は見えていない。
そして、ヒアリングの最中に「これ強みじゃないですか」と感じる瞬間が必ず出てくる。これを「強みの種」と私たちは呼んでいる。
強みの種が出てきたら、そこからさらに掘り下げる。
- それって、他社はやっていないんですか
- それを、なぜやっているんですか
- それは、ユーザーにとってどんなベネフィットがあるんですか
この3つの問いを、種が出るたびに繰り返す。これが、ヒアリングの基本動作である。
そして、強みの種は、最低でも3つ出るまで掘り続ける。一つの強みだけで打ち出すと、それが顧客に刺さらなかったときに、すべてが空振りになる。3つの強みが揃って、初めて「自社が選ばれる理由」を多角的に伝えられる状態になる。
3つ目がなかなか出てこないことも多い。1時間以上かけて、ようやく出てくることも珍しくない。それでも、ここで妥協せずに掘り続ける。一番奥のほうにある強みほど、競合との差別化要素になりやすい。
「現場の人に1.5〜2時間も時間を取らせるのは難しい」と感じるかもしれないが、ここで妥協すると、後の言語化のクオリティが大きく下がる。むしろ、最初の1回でしっかり時間を取るほうが、結果的に近道になる。ちなみに、ヒアリングは可能な限り対面でやったほうがいい。オンラインだと、細部の温度感までは聞き取れない。
事象をベネフィットに翻訳する
ヒアリングで強みの種を引き出すことができても、それだけでは強みにならない。
なぜなら、種として出てくるのは多くの場合「事象」だからだ。事象のままでは、顧客にもAIにも刺さらない。事象を「ベネフィット」に翻訳して初めて、それは強みになる。
実際の例を3つ挙げる。
例1:アプリ制作会社の「契約前ワイヤーフレーム」
あるアプリ制作会社のヒアリングをしたときの話だ。
「強みは何ですか」と聞いても、ピンとこない。そこで提供プロセスを順に聞いていったところ、「最初の打ち合わせのときに、作りたいアプリの要件を聞いて、その場でワイヤーフレームまで作ります」という発言が出てきた。
ご本人は当たり前のように話していたのだが、これは普通の話ではない。多くの開発会社は、契約後にワイヤーフレームを作る。契約前に、しかも初回のヒアリングでそこまでやる会社はほとんどない。
「これ、契約前にやってるってすごくないですか。他社さんもやっているんですか」と聞くと、「あまりやっていないと思います」と。ここで、ひとつ強みの種が確定した。
ただ、「契約前にワイヤーフレームを作る」という事象だけでは、ユーザーにとっての価値は伝わらない。だから、ここからベネフィットに翻訳する。
なぜそれをやっているのか。それは、ご本人がアプリ開発の経験を長く積んできた中で、ノーコードツールでの開発案件は雑に進めると後から「この要件は実装できない」と発覚しやすいことを知っているからだ。
それを防ぐために、契約前の時点で要件をワイヤーフレームに落とし込んでしまう。結果、開発フェーズでの手戻りやスケジュール遅延が起きにくい。
ここまで翻訳すると、ようやく顧客にとっての価値が伝わる強みになる。
例2:士業サービスの「定額制」
ある士業事務所では、もともと「相続に関する手続きを定額制で受けています」というのが打ち出しだった。
ただ、「定額制」というだけでは、ユーザーにとってのベネフィットが分からない。安いのか。サービスが手薄なのか。疑問が残るだけである。
そこで詳しく聞いていった。業界の標準的な料金体系がどうなっているのか。それに対して、定額制だとどう違うのか。
結果、見えてきたのは、業界の多くの事務所は対象となる資産の規模に応じて料金が上がる体系を採っている、ということだった。これに対して、この事務所は定額。
ここで電卓を叩いてみると、資産規模が大きいケースでは、従来型の料金体系に比べて、数十万円単位で費用を抑えられる場合があることが分かった。
そこで、強みの記述を「定額制」から、「◯◯万円規模の資産をお持ちの方は、特に費用メリットを実感していただける相続サービスです」といったものに変えた。
事象は同じだ。しかし、ベネフィットに翻訳されたことで、ターゲット(高額物件をお持ちの方)にとっての価値が明確になった。
例3:外壁リフォーム会社の「大手ブランド住宅特化」
外壁リフォームの世界は、はっきり言って競合が多く、強みを引き出すのが難しい業界である。
ある外壁リフォーム会社のヒアリングでも、最初は「うちの強みは何だろう」という状態だった。1時間以上、提供プロセスを細かく聞いていったところ、ようやく「うちは全国でも一部の会社しか使えない、ある特殊な塗料を使えます」という発言が出てきた。
これも、ご本人にとっては営業のときに少し触れる程度の話で、サイトには一切書かれていなかった。「扱える会社が限られている塗料を使用」と言語化することで、ようやく一つの強みになった。
もう一つ、この会社の強みとして元々あった「大手ブランド住宅の外壁リフォームに特化している」という記述を、さらに掘り下げてみた。
「大手ブランドの住宅を、特化していない普通のリフォーム会社に頼むと、どうなるんですか」と聞いてみると、出てきたのは次のような話である。
外壁リフォームは、住宅ブランドごとに塗り方や使うべき素材が異なる。本来、これはその住宅の仕様をよく理解していないと判断が難しい情報だ。この会社は、創業期に大手ブランド住宅の案件を地道に受けてきたことで、ブランドごとの正しいやり方を理解できるようになった。
ブランドの特徴を理解していない会社に依頼すると、細かい部分が綺麗に仕上がらなかったり、保証面で不利益が出たりすることがある。
ここまで翻訳すると、「大手ブランド住宅特化」というふんわりした強みが、「住宅ブランドごとの仕様を理解していない業者に頼むと、仕上がりの質が落ち、最悪の場合はメーカーの長期保証も失ってしまう。だから、大手ブランド住宅の仕様に詳しい私たちに頼んだほうが安心です」という、ユーザーにとっての具体的なベネフィットに変わる。
強みの記述に必要な4要素
ヒアリングでベネフィットまで翻訳できたら、次はそれを文章として記述する。
このとき、強みの記述には次の4要素を必ず入れる。
- 強みの内容:何をやっているのか(例:契約前にワイヤーフレームを作る)
- ベネフィット:それが顧客にとってどんな価値があるのか(例:開発フェーズでの手戻りを防げる)
- 具体例:実際にそれが分かる事例や画像(例:実際に契約前に作ったワイヤーフレームの画像)
- 根拠:なぜそれができるのか(例:代表自身が長くアプリ開発を経験しており、要件漏れの起きやすさを知っているから)
この4つが揃って、初めて強みの記述として機能する。
逆に、4つのうちどれかが欠けると、強みは弱くなる。「内容」だけだと、抽象的に聞こえる。「ベネフィット」がないと、誰にとって価値があるのか分からない。「具体例」がないと、本当にやっているのか疑われる。「根拠」がないと、なぜ自社にそれができるのかが伝わらない。
そして、もう一つ必ず聞いておきたいのが、実績の数値だ。
「相続案件を1,000件以上対応しています」ではなく、「927件対応しています」という具体的な数字。これだけで、記述のリアリティが大きく変わる。「1,000件以上」は丸めた表現に聞こえるが、「927件」は実際にカウントしている会社にしか言えない数字である。
AIに引用される、顧客に信頼される、そのためのリアリティは、こうした具体性の積み上げで作られていく。
強みは、ヒアリングと翻訳でしか言語化できない
ここまで書いてきた通り、強みの言語化は次の2つで決まる。
一つは、ヒアリングだ。一人のユーザーの体験を起点に、提供プロセスの細部まで聞き、強みの種を掘り出す。
もう一つは、翻訳である。出てきた事象を、ユーザーにとってのベネフィットに翻訳し、根拠と具体例で支える。
これは、机の上で「うちの強みは何だろう」と考えても、絶対に出てこない。フレームワークに当てはめても出てこない。実際の顧客との関わりの中に埋まっているものを、ヒアリングで掘り出して、翻訳するしかない作業である。
そして、この作業をやり切ると、サイトのコピーも、AIへの見え方も、営業資料の説得力も、すべてが変わる。なぜなら、すべてのコミュニケーションの土台にある「自社は何の専門家として、誰にどんな価値を提供するのか」が、初めて言語化された状態になるからだ。
Webからの問い合わせが減っているとき、最も効く一手は、新しい施策ではない。自社の強みを、ユーザーとAIに正しく伝わる形で言語化し直すことである。
さいごに
強みの言語化は、特別なツールも、複雑なフレームワークも要らない。一人のクライアントの体験を、現場の人から1.5〜2時間かけて聞き出し、出てきた事象をベネフィットに翻訳する。やることはこれだけだ。
ただし、一つだけ注意点がある。ヒアリングを自社内でやろうとすると、たいてい掘りが浅くなる。社内の人どうしだと、すでに共有されている前提が多すぎて、「これって他社もやってませんか」「なぜそれをやっているんですか」といった、強みを引き出すための問いが生まれにくいからだ。
理想は、外部の第三者がヒアリングをやることだ。社内の人にとって当たり前の事象に、「それ、すごくないですか」と気づける視点が要る。
なお、本記事で書いた強みの言語化は、サイト構造の再設計、AIクローラーへの対応などと併せるとより大きな成果につながる。それぞれの具体的な進め方も、別の記事で書いていく予定だ。
AI検索で選ばれる状態に、90日で到達します
「Webからの問い合わせが減った」「AIに引用されたいけれど何から始めればいいか分からない」——AI対策は、個別施策を積み上げても答えにたどり着きません。必要なのは、AIに選ばれる構造にサイト全体を作り変えることです。
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90日で実行する内容の一部:
- 勝つべきニッチ領域の特定:強みが最も活きるターゲットを3つまで絞り込む
- 独自の強みの言語化:AIに推薦されるレベルで再定義し、サイト全体に反映
- 事例コンテンツの量産体制構築:AIが引用しやすい事例を5分で生成できる仕組みを整備
- AIクローラー対応の技術施策:構造化データ、ページ速度改善など
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